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第95話
宗太
「あいつとの一件は、虫に刺されたとか、タンスの角に足の小指ぶつけた位に思え。もう気にするな」
抱きしめながらそう屋内に言い聞かす。
「うん」
「お前にはこの菊池先輩がついてるから安心しなさい。今度何かあったらすぐ連絡すること!すぐだよ!わかった?」
「は、はい」
「もうあいつに近づくなよ?」
「はい!」
「こういうことされると……心配する」
「は、はいごめんなさい」
屋内の前髪を撫でたり指に絡ませ、くるくるして遊ぶ。
前髪を弄られたことがないのか、屋内はどうしたらいいのかわからない様で困っていた。
しまいには弄られながらぎゅっと目を閉じ始めた。
だ~か~ら~!それ誘ってるようにしか見えませんよ屋内さん!
マジ理性が揺らぐっての。
コンコン
ドアをノックする音と同時に扉が勢いよく開く。
「失礼しまーす!あー!やっぱり!今度こそ菊池先輩だ!」
「る、類!」
入ってきたのは、たぶん噂の弟くん。
髪は屋内より短く、背は屋内よりちょっと高い?
シャツは第二まで外し裾を出していて、なるほど兄と大分違うっぽい。
顔は何となく屋内と少し似てるけど、屋内の方が可愛いわ。
入ってきた弟くんは、屋内の前髪で遊ぶ俺を好奇心の目で見つめる。
でも隙がない視線で、スッゴい見られてるな俺。
「類!いきなり入ってくんなよ!」
「いいじゃん!減るもんじゃあるまいし。へー…予想以上にカッコいいかもー菊池先輩!」
ニヤニヤする笑顔はまだ中学生のあどけなさが残る。
ガキだけど、髪型もセットしたりしてあか抜けた印象で、まぁ普通にモテそうなんじゃない?
「なな?もうヤったのか?これからか?」
「!!お前っっ!何言ってんだよっ!!!」
赤くなって怒る屋内はこれまた新鮮だったけど、弟くんが登場してくれてホッとしたよ。
感情に流されてしまうところだった。
「さて、俺はもう帰るよ」
すっと立ち上がる。
扉の前にいる弟くんのところまで行き、弟くんの頭をわしわしと乱暴に撫でた。
「わ!ちょっとセットが乱れる!何すんだよ!!」
「どうも初めまして菊池宗太です。君が噂の弟くんだな?」
「え!なに!噂のって!?って…背高っ!!」
「兄ちゃんのこと…よろしく頼むな」
「…なんだよそれ!」
「あ、屋内さーん!今夜レベル上げ手伝ってね?ちゃんとログインしてよ?ほんじゃお邪魔しましたー!」
「せ、先輩!!あ、有難う!」
「はいは~い!」
ひらひらお手振りしながら屋内家を後にした。
屋内んちを後にしてとぼとぼ家路に向かう。
はぁ…
屋内を遠ざけるつもりがぐっと距離を縮めてしまった…
今回の件があって屋内を避けるのは得策ではないことがわかったし、屋内が自分自身に関することはてんで鈍感だということもわかった…
俺がキスした意味も良くわかってない様子だった…けどあいつ…阿保か?
自分の屋内に対する気持ちは…わかっているもののそれにあえて蓋をしてたけど…
蓋してたら吹き零れたわ!!
屋内を他人に取られるとか…マジあり得ない。
…
あ、
あいつのこと忘れてた。
腸が煮え繰り返る感情がぶり返す。
屋内にキスしやがったんだよなぁ…
殺してやりたい…
さて
どうしてやろうか…
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