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第115話*
霧緒
……ズキズキと、頭が痛む。
予備校から帰り、自宅に着くと直ぐ薬を飲んだ。
早くこの頭痛から解放されたかった。
シャワーを浴び、ベッドに倒れ込むように横になる。
久しぶりの体調不良で参った。
この頭痛が治まるまで横になっていよう。
最近熟睡できないし。
詩の事が脳裏に浮かんだけれど、こんな格好悪いところ見せられない。
そう思うと連絡するのも躊躇われた。
何してるんだろうあいつ。
俺のこと、会えない時には詩もこんな風に考えたりしてくれているのかな?
それとも……
いつしか何気なくふと感じた不安は、大きな影となって俺に覆いかぶさっていった。
詩と一緒に居ればいるほどそれにじわじわと心が侵されていくようだった。
詩のことを好きになればなるほど、思い出したくない過去の記憶がフラッシュバックしてきて
、揺るがない自信がバラバラと削がれていく。
独占したい気持ちと、それに対する躊躇い。
もともと親父と母の関係はドライでお互い仕事を優先にしていたこともあり、いつでも離婚の話はあったようだ。
そこに汐里が入ってきたことにより、一気に離婚の話が進んだ。
両親からの愛がなかったわけではないけど、ほとんど二人とも家にはいなかったし、他の家庭に比べたら家族のコミュニケーションはとれていなかったと。
それが、普通なんだと思っていた。
寂しかったといえば、当然寂しかった。
ガキだったし。
それでも仕事から帰ってくる母は俺のことを抱きしめてくれたし、下手だけど飯も作ってくれた。
そこで幸せを感じていたんだと思う。
だから母を独占する汐里が現れた当時は、メチャクチャ大嫌いで、そいつにハマっていく母にも幻滅し、嫌気がさした……
あー思い出したくない記憶だ。
俺も大人になったよな。
汐里の飯、食えるようになったんだから。
あいつのおかげなんだよな。
瞼が……重い…………
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