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第191話 *
霧緒
「おーい!霧緒ー!」
駅の改札を出ると、手を振る麦わら帽子を被った詩の姿が視界に入る。
「迷わなかったー!?」
「……当たり前だ……」
にっこりと嬉しそうに笑う詩に、つい顔が綻ぶけれど、詩の後ろにいる人物の気配がそれにストップをかけた。
この人が詩の姉さんか……
俺を上から下まで射るような視線で観察し、遠慮なくじっと見つめる人物。
後ろでひとつにまとめた黒髪と、凛々しい眉が印象的な美人な女性だ。カーキ色のカットソーにスキニージーンズとパンプス姿で都内にいても目を引く感じ。
へぇ……お世辞抜きに綺麗な人だな。
でも何か謎の緊張感が漂うんだけど……
「はじめまして、宮ノ内です。数日お世話になります」
挨拶をすると、にこりと微笑みがかえってきた。
「はじめまして詩の姉で萩生清江と申します。霧緒くんよね?遠くまでよく来てくれたわ。本当、詩が言ってた通りのイケメンくんね!詩が毎日あなたのこと自慢してたわよ!どうぞゆっくりして行ってくださいね!」
「うわ!それっ言う!毎日してねぇ!」
「え、……有り難うございます」
緊張感から一変して、明るい笑顔に拍子抜けした。
笑った笑顔に華やかさがあり、人を引き付ける。
……まぁ……目立つ人だな。
「ほら詩、霧緒くんの荷物持ってあげなさいよ」
「は、はい!霧緒、車乗って!」
詩の顔を見ると、顔が赤く照れているのがわかって可笑しかった。
車の後部座席に俺と詩が乗り込み、たわいもない会話をする。
しばらく走っていると緩い上り坂になってどうやら私道っぽい?
上がりきったところの建物の入り口に入って行く。
えーと、ここは……
寺?
神社?
ここが詩ん家…?
寺か神社を思わせるような古いお屋敷だった。
敷地内には別の建物があるし、庭には御神木を思わせるような大木がそびえている。
これはまた歴史がありそうな……って、普通の家じゃねぇだろ。
車から降り、呆れて建物を眺めていたら……
「古い家でごめんなさいね」
清江さんが申し訳なさそうにそんなことを言う。
いやいや違うから!
「いえ……凄く立派なお宅ですね」
「そう?ボロいだけであちこち痛んでるからメンテナンスが大変なのよー」
まぁそうだろうなと思いつつ、ついつい屋敷の細かい所まで見たくなってしまう。
後で詩に見せてもらおう。そう考えていると……
ワンワン!
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