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第201話 *
霧緒
「やっぱり……。避けては通れないのか」
「……もち」
「あんなに楽しい夕飯の後だって言うのに?もう現実に引き戻されるのか!残酷すぎる!」
目をウルウルさせる詩は可愛いけれど、現実はそう甘くない。
賑やかな夕食を終え、風呂も済ませ寝るまで詩の宿題を見ることになった。
その前に詩の部屋をまだ見ていなかったのを思い出し、部屋にお邪魔している。
和室の詩の部屋はほとんど当日のままにしてあって、中学の時の授業で作ったという版画が飾られていたり、教科書もそのまま本棚に収められていた。
水色のギンガムチェックのカーテンが詩っぽいし、姉さんたちの趣味だろうか、部屋の中は水色とか淡い黄色で全体的に優しい色合いでまとめられている。
「お、学ラン姿の詩……ヤバ」
飾られてあるフォトフレームには、中学の頃に撮った写真が収められていた。
「あ、こいつが本多佳輝って言って一番仲いい奴!よっちゃんって呼んでる。明日一緒に夜祭行く予定になってるからよろしくー!」
詩が指さして教えてくれた奴は、仲良さそうに詩の隣で無邪気に笑っていた。
ふーん幼馴染ってやつかな。
名前はあれだけど、顔は脳内にインプット。
「明日はこの浴衣着るのか」
「うん、着るよー!やっぱりさ、祭りは浴衣着たいよなー!」
机の上に置かれた紺色の浴衣は、細縞が入っていてシンプルだ。
からし色の帯が添えられている。
「詩に着せたいけど浴衣の着方わかんねぇな」
「ここまで来て着せようとしなくていいから!変に思われんだろ。俺着付けできるから、霧緒のもやってやるからな」
「ん、サンキュ。で、詩はこの部屋で寝てるのか?」
「そうだよ」
「俺とは一緒に寝ないの?折角のヴァカンスだってのに」
俺としてはこれが一番肝心なんだけど。
きょどりながら顔を赤くする詩を、じりじり部屋の壁に追い込み、壁ドンする。
「え、あーと……なかなかどうして……どどどうだろう?」
「別にさ、男同士なんだから一緒の部屋で寝てもおかしくないだろ?」
「そ、そうだけど。ちょっと色々あれで……」
「……生理きた?」
「ちげーーーー!!!」
拳を振り上げる詩の手首を頭上でとらえ、そのまま押さえつける。
「はいはい冗談だから。でもさー、折角詩と一緒に過ごすの楽しみにしてきたのに」
顔を近づけ耳元で囁くと、押さえつけている手首から力が抜けるのがわかった。
目元がリアルに潤んできて、正直このままこの細い首筋に唇を這わせてしまいたい。
「だ……だって……」
「……」
「一緒に寝ると、止まらなくなりそうで……それマジヤバいと思う」
「家族がいるからって?」
「あの、それもだし。絶対嫌な予感が……」
「ちょっとー!二人とも部屋にいるのー?」
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