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第210話

清江の言い方があんまりで、途中からキレてしまった。 何なんだよあいつは! 履き慣れない履物なのに、怒りで無意識に足早になる。 本人が目の前にいるってのに、あんな言い方しなくてもいいじゃないか! マジ!ムカツク!! あいつは霧緒の何を知って言ってんだよ! 数日ちょっと話しただけの奴に、あんな事言われる筋合いない。 浴衣を選んだのは自分だし、俺が勝手に考えてあげただけだし。 そもそも恋人恋人言ってるけど、恋人は俺だし!!何の火種ですかー!残念でした!火種にはなりませんー!ってんだよ!! …… …… ん? …… あれ? 俺の歩く足がピタリと止まるので、隣を歩いていた霧緒が数歩先で振り返る。 ……恋人? …… 俺さっきなんて言った? えーと…… 「あーっとさ……俺さっき……何て清江に言ってたかな?」 二、三歩先にいる霧緒に、恐る恐る聞いてみる。 「ん、清江さんのことババアって言ってた」 ……い、言ったな。 「あと、俺が恋人だからいいんだよ!って言ってたぞ」 ふふんと色っぽい瞳で、俺のことを眺める霧緒。 !!!!!! 「ま、ま……」 「マジで」 「わーーーーーーーーーーっ!!!!」 ど、ど、どうしよう! ブチ切れて、隠してたことをうっかり俺はばらしてしまった!! しかも大声で! しかも!ババアって禁句つきで!! し、死んだな。俺……色々死んだ…… 「別にいいんじゃね?いずれバレることだしさ」 「だだだって!だって!姉ちゃん達に何されるか!!」 「……何されても、刺されても俺は構わないよ」 ………! 立ち止まり微笑む霧緒は、薄暗い宵の景色に溶け込んでいて、とても綺麗だった。 怒りで見えなかった周りの景色が、急に広がり、ひぐらしの鳴く声が聞こえる。 …… 「霧緒……」 「俺の事で、あんな怒ってくれて……サンキュ」 「え、イヤあれはだって!清江が……っい!」 ぐいぃっと、左右のほっぺたを引っ張られた。 「い、いひゃぃ……」 「有難うは素直に受け取れって。で、これから祭り行くんだから、変な顔してんな。気持ち切り替えろ」 「ひゃ、ひゃい……」 「おし。行くぞ」

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