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第262話
コンサートホールの中は、薄暗くてよく見えない。
今一つの演奏が終わったのか、大きな拍手が鳴り響いていた。
類の後に続いて座席に座る。
前の方の座席で、かなり舞台に近かった。
舞台の奥に聳える、大きなパイプオルガンの存在感が凄い。
「私語気を付けて。何かあったら耳元で」
「……う、うん」
「こんな感じで……囁いて……ね」
「!!」
耳元でワザと息がかかるように類が囁く。
だからお前こういうのやるのやめろって!
って大声で言いたいけれど、それが言えないのでぐぬぬと我慢して堪えた。
本当になんでこんなにくっついてくるだこいつは!
そうこうしてる間に、舞台は静かな音を立てて人や楽器が舞台袖から入れ替わる。
正直クラシックは全然知らないし、楽器の名前もほとんどわからない。
しかし厳かなこの会場の雰囲気にのまれて、ずっと胸がドキドキしていた。
舞台が一気に明るくなると、舞台全体が見渡せる。
高校生だから年は俺とほとんど変わらないのだろう。
それぞれの楽器を手にし椅子に座り、指揮者を待っている。
オーケストラってやつだあぁ……!
……はぁあああ……わくわくしてくるー!
何故か俺が緊張してるんだけど……
指揮者が舞台袖から出てくると、大きな拍手が沸き起こる。
「ね、ね、指揮者って学校の先生?」
「あ?そうだよ顧問。当たり前だろ」
「おおおぉ」
作曲者の曲名もパンフレット見てもさっぱりわからず。
聞いても何の曲かわからないけれど、俺は完全に口が開いていてあっけにとられていた。
想像以上に響き渡る大きな音と、それぞれの楽器のメロディーと調和が綺麗で、繊細で切なくて時にはダイナミックで、高校生が演奏してるとは思えないほど素敵な演奏だ。
……凄い……
お、同じ高校生が演奏してるなんて信じられない!!
うちの学校にも管弦楽部はあるし、行事で演奏してるけど、こんなにじっくり聴いたことはなかった!ゴメン!
「……まあまあかな」
ぼそりと呟く類は、先ほどとは違って真面目な顔で演奏を聴いていた。
……まあまあって辛いなぁ。
めっちゃ凄かったじゃん!とか思いつつその横顔を見つめた。
だらしない顔は消えて、真剣に音楽に耳を傾ける姿が印象的だ。
類って本当、音楽好きなんだなぁ……
その後の演奏もどこも素晴らしく、音楽初心者の俺は感動しまくってしまい、拍手のしすぎで手の平がじんじんしていた。
残るは、あと一校。
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