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第266話
あれ?
何この状況……何かおかしくね?
俺、エレベーターの中で、バイオリン王子に壁ドンされてるんだけど?
乗りかえって……どういう意味?
「すっごい顔赤いよ。可愛いね」
壁ドンされ、唇が近づいてきたので、これはちょっとさすがにおかしいっ!
そう思い突き飛ばそうとしたのに、うまく力が入らなかった。
逆に腕を取られてしまい、さらに二人の隙間が埋まる。
二人しか乗っていないエレベータの隅に追いやられ、背中に腕が回り抱きしめられてしまった。
吐息が首筋にかかり、身体がぞくりと震える。
「ふぁ!」
「あっはは、ふぁって何?天然?マジ可愛いかも。喉渇いてたからジュース……いっぱい飲んじゃったね」
こいつ……何言ってるんだっ!気持ち悪いから離れろって!どいつもこいつもくっつきやがって……
でも何だか身体が熱くて、ふわふわしてくるこの感覚は、ちょっとおかしい。
どうしたんだろう。俺の身体……思うように動いてくれない。
「大丈夫?汗掻いてるよ」
指先でうなじを撫でられ、怒りと羞恥でさらに身体が熱い。
エレベーターが到着し扉が開くと、密着していた身体をなんとか振り払い、逃げるように外へでた。
廊下をすたすた歩いているはずなのに、何故かクラクラしてしまい真っ直ぐ歩けない。
どこだよ?
「ここ……どこ……レストラン?」
広い豪華な廊下を進んでも、それらしい場所が見当たらない。
「はーい!こっちこっち!レストラン!」
肩を抱かれ、一つの部屋に案内された。
……
……どこ??
頭がぼーーーっとする。
「……顔色悪いよ?ふらついてるし、危ないなぁ……ちょっと横になってなよ」
「あれ……類……は?」
「は?……類は……いねぇし……」
「え」
いきなりドンと乱暴に背中を押され、そのまま大きなベッドへと転がされてしまった。
……ちょっ……何す……!
類……!どこだよ……
「やれやれ。どこから湧いてでたのか、勇気ある子だな君は。それとも類にそそのかされちゃったかな?あいつは我儘だし、卑怯者だから……」
「あ……あの……」
「見せつけるように人前でイチャイチャして、俺に嫉妬させて演奏の邪魔でもしたかった?類が考えたの?それとも君?馬鹿な子だな。俺を誰だと思ってるの。君も可愛い顔してムカツクんだよ」
「……類はね、俺のものだよ」
「え」
「類が君に興味があるなら、俺が奪えば良いだけのこと。だよねぇ?」
先ほどの花ような笑顔はなく、冷ややかな冷たい視線。
今の言葉の意味を、使い物にならない脳で考える。
それって……それって……凄い誤解されてる?
「ねぇ……優しく抱いて欲しい?それとも激しい方がお好みかなぁ?類はどうなの?」
そいつは仰向けになる俺の前髪を撫でると、下唇に触れる。
危険信号にやっと気がついた時にはすでに遅く、身体からどんどん血の気が引いて耳鳴りがし意識が遠のいていく。
き、気分が……悪い……
身体がベッドに張り付いてしまったみたいに動かすことができない。
嫌だ……触んな……
おかしい……
どうしよう。
起き上がらないと……
この人……怖い……類……どこだよ……
どうしよう……
……霧緒…………
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