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第267話
類
トイレを済ませ、OFFにしていたスマホの電源を入れると、予想通り玲二からの着信やらメッセージが大量にきていた。
詩には玲二には今日の事伝えたって言ったけど、あれって普通に嘘だしー?
当然も当然!兄ちゃんに言うわけないよね。
うわースゲーな。
俺らのいる場所、わかったっぽいな。
チケットを手に入れた時は玲二と行く予定にしてたから、考えればまぁわかるか。
「おーい、詩ー!帰るぞー!」
しかし通路のソファーに座って待っているはずの詩の姿がなかった。
あー?
あいつどこに行った。
ロビーに下りたかな?
階段を降り、やれやれと思いつつ辺りを見渡してみるけれど、詩の姿は見当たらなかった。
スマホ……ちっ、あいつ電源切ったままじゃーん!
迷子の詩ーどこだよー?とふらふらしてると……
「こらぁあああー!類ー!!!」
お、スゲー!マジで来た!
入り口に顔を赤くした兄ちゃんこと玲二の姿が見える。
その後ろには菊っちの姿も。
それと……
「兄ちゃーん、ヤッホー!お疲れ!」
「ヤッホー!……じゃねぇっ!!」
ぐお!!
会った瞬間、思い切り玲二に胸ぐらを掴まれた。
「イった!何だよー」
「何だよじゃねぇっ!何でお前と詩が一緒に出かけてんだよ!僕は聞いてないぞっ!類!全部吐け……誤魔化すなよ……洗いざらい吐け……吐きやがれっ!!!!」
普段キレない玲二が、マジでキレてて面白い。
「く、苦しいから!はな……離せって……色々あんだって」
「……おい」
聞き慣れない、低めの澄んだ声が異物の様に俺の耳に響く。
……
あの日……
あの日の夜は、駅前の知り合いがやってるジャズ喫茶で、飛び込みで演奏に参加させてもらえてその後の事だった。
遅い時間の参加は駄目だって怒られ、家に送ってもらうまでの間、暇でコンビニに行くのに外に出ると、丁度ナンパされてる女子がいた。
目障りでうざったいから、ナンパしてるおっさんを追い払ったんだけど……その時に一度だけ言葉を交わした。
その彼女の彼氏だという人物。
彼女=女装した詩だったなんてねー!
ありえねー!
……でもこのイケメン……
何……
存在感、半端ないんだけどー。
この人もここに来たんだー。
……って、意外……
ここまで走って来たのはわかる。
それなのに、汗の一つも掻いていない。
すらりとした姿、長い足、整った容姿にサラリと少し乱れた髪は色っぽくて、男の俺でもゾクリと鳥肌が立つ。
周りの女も男も思わず振り返るほどのイケメンがそこにいた。
宮ノ内霧緒……
「詩は?」
無表情で何を考えてるかわからないのに……物凄い威圧感。
あーーっと……
……しまった。ぶっちゃけ、この人の対応考えてなかった。
でもここに来たってことは、結構あれか?
本気か?マジなのか?
こんなにイケメンなのに、本気で詩に惚れてたりするのか?
「あー詩その辺にいるはずなんだけどさー。コンサート終わって、俺トイレ行って戻って来たら姿なくて」
「そうなの?どこだろう。スマホ全然繫がらないし」
そう、こう話してる間にひょっこり出てきてもおかしくないのに、全くその気配もなく、ただただ関係のない周囲から注目を浴びるだけだった。
そりゃ宮ノ内と菊っちだけで十分目立つんだから仕方ないんだけど、「ええーー!!皆なんでいるの?」みたいなのんきな詩の声が聞こえてきてもいいはずなのに、それが聞こえてくることもなかった。
……マジどこ行った?
「彼…ここにいないよ」
聞き覚えのある声にはっと振り返る。
詩がモデルみたいだと言っていた人物が、気だるそうに立っていた。
「……なんで……お前が知ってんの?」
「な、成谷 くん!」
玲二の悲鳴みたいな驚く声に、心の中で舌打ちした。
「……おい!なんでお前が知ってんだよ!」
「忠告しただろ類。馬鹿だな、お前」
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