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第268話

類 「……………」 「少し前に、一智(いち)があの可愛い子搔っ攫って行ったぞ。お前が煽ったせいで今頃ベットの上で二人よろしくヤってるか……も……っ!!」 !!!! 「どこだっ!!」 「……誰だ、お前」 「どこだって聞いてんだよっ!!!」 「霧緒……っ!落ち着け!」 無表情だった宮ノ内が、血相変えて成谷に突っかかり、胸倉をつかんで今にも殴りかかる勢いだ。 それを菊っちが止めにかかる。 宮ノ内が取り乱す様子を目の当たりにして、初めて心がズキンっと痛んだ…… え、何なに? こいつ、何取り乱してんの? そんなに詩が大事なの? そう思いつつ、もう一つ別の感情が沸き起こる…… あの…… あの一智の大馬鹿糞野郎……!!!! 「……あいつどこ。教えて……」 「……」 「あいつ……詩は何も知らないんだよ」 「……ったく。ここの32階。ほらカードキー」 宮ノ内が瞬殺でカードキーを奪い取り、エレベーターを探す。 「こっち!!!」 宮ノ内に声をかけ、ダッシュでエレベーターへ行きボタンを連打する。 もう冗談言ってる余裕はない…… どんどん血の気が引いていく。 ……もし…… もしもあいつが詩に手を出したら、マジで許さねぇ。 詩が今日嫌々俺につき合ってくれたのは知ってるし、マジで俺のことうざがってると思う。 俺だって、こんな根性ねじれた奴と一緒にいるのは正直ごめんだ。 面倒ながらもこんな俺につき合ってくれて、コンサートも目をキラキラさせて、素直に演奏を楽しんでくれていて……変な奴だって思った。 こいつ阿保じゃね?って。 俺は詩の優しいところに付け込んで、適当なこと言って嘘ついて……ただ浮気された腹いせに、あいつ好みの子とイチャイチャしてるのを見せつけ、嫉妬させてやろうと利用しただけなのに…… 阿保だけど、隣でドキドキしながら演奏を聴いている姿を見るのは悪くなかった。 音楽を楽しんでくれていて、嬉しかった。 本当変な奴……でも…… 兄ちゃんが詩の事、好きな理由がなんか分かった気がした。 詩に手を出したら許さねぇ……あいつは…… あいつはいい奴だ…… そして俺がいるのに、俺以外の男に手を出したら許さねぇぞ一智。 「……ゴメン。……ゴメン………なさい」 無言のエレベーターの中。俺の口からはこの言葉しか出てこなかった。 早く…… 早く着いて…… チン… 32階の扉が開く。

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