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第270話 *
霧緒
「詩!詩!」
屋内の不安そうな声にハッとし、ムカツク二人を放置し、ベッドに駆け寄る。
仰向けに横たわった詩の額は汗ばみ、ぐったりして微動だにしない。
シャツのボタンが外されており、上半身が露わになっていた……
滑らかな肌、胸の突起は刺激をあたえられたせいか、ぷくりと赤らんでいて……あの野郎っ!!
……マジ……ぶち殺すっ!!
しかしまずは詩の容態が最優先だ。
苛立つ気持ちをなんとか抑え、他に何かされていた形跡がないか、抱き抱えて丁寧に確認していく。
胸に残る消えかかった痣……
それを目にして一瞬怒りではらわたが煮えくり返る思いだったけれど……
……首筋から胸から細かく見分する……
……
あ?
これもこれも、全部俺がつけたキスマークだわ。
それをあいつは、類がつけたものと勘違いしたらしい。
「おい、詩……起きろ」
ぺちぺちと頬を叩くと、眉間に皺をよせた。
「ん……」
「詩……詩……」
「ん……んぁ……」
「起きろ」
「…………ン……」
眉間にシワを寄せながら、眩しそうにその瞳が開く。
顔色は悪く青白い。
しかし何度か瞬きをすると、視界が開け俺がいることを認識できたようだった。
何とか詩の意識が戻ったみたいでほっとした……と思ったら。
「むあーーーーーー!霧緒おぉぉ!!!好きぃっ!!」
!!
そう言って、ベッドの上で思い切り飛び付かれ抱きしめられてしまった。
緊迫したこの場の雰囲気を、ぶち壊すのんきな声に、大喧嘩中の二人も動きを止め、訝しげにこちらを見ていた。
屋内は顔を赤くして驚き、菊池は若干半笑いだ。
「……おい類……何あの子。今、好きとか言ってたけど。あの子お前と付き合ってるんじゃないの?」
「……ちげーよ!……んなの嘘に決まってんだろ!!!ほらあいつ、お前殴ったやつ。あいつが詩の彼氏だよ」
「……ちっ、あいつか!ふーん?何あの子、可愛い顔して二股かけてんの?」
「だからちげーって!!俺とはなんもないっての!!!」
「……」
「お前が!……一智が……他の奴と浮気したから……頭きて」
「……浮気?いつ?してないよ」
「した」
「してない」
「したよ」
「浮気されたから仕返ししようとしたって訳?」
「……ふん」
「ふーーーーーん」
俺に抱き着いて離れない詩を抱きしめ、ホッとした。
状況わからず、どうやら寝ぼけているらしい詩に怒る気持ちはなく、ほっとして優しく髪を撫でた。
……………良かった。
詩を抱きしめながら、よくよくこの状態を考えてみる。
まずはそこで喧嘩してる二人。周囲の物を投げ合ったのか、奴らの辺りは酷い有様だ。
マジでぶっ飛ばしてやると本気で思った。
「あーあ、酷いな。一智、お前……酷い顔してる」
そう言いながら部屋に現れたのは、ロビーでこの部屋のカードキーを渡してくれた奴だった。
そいつはこの部屋の様子を眺め、冷蔵庫からペットボトルを一つ取り出し、俺に手渡す。
「これ、ただのミネラルウォーターだから安心して?その子に飲ませてあげな。多分シャンパン入りのジュース飲んでるはずだから」
は?
そういえば詩の状態は顔色が悪く、起きてからのテンションが普段よりもおかしい。
……アルコールが入ってるなら理解できる。
こいつ、酒飲まされたのか……
「彼、本当に何も知らないで巻き込まれたみたいだね。ゴメンね」
申し訳そうに俺と詩にそう言うと、今度は類とあいつの前まで行き。
「一智も悪いけど、類!今回は他人を巻き込んだお前が一番悪い。一智と喧嘩する前にやることがあんだろ」
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