271 / 506

第271話 *

霧緒 さすがにバツが悪そうな表情を浮かべる類。 ペットボトルの水を詩に飲ませてやる。 こいつ……どれくらいのシャンパンを飲んだか知らないけど、酒弱いのか? アルコールと脱水で、若干の貧血を起こしているようだ。 この先……対策練らないと、社会人になった時が本当に心配だ。 「えーーーあーあのー詩。ご、ごめん。それと皆さん色々ごめんなさい」 力ない感じで、類が呟く…… 「でー!俺を殴ったあいつ誰!類!説明しろ」 俺が殴った相手は、よほどプライドが高いのか頻りに俺の事を気にしている。 殴り足らないから、あと数回殴ってやりたい気分だ。 「あーっと、今日俺と一緒にいた詩って奴の彼氏」 「……それは聞いたって!無駄にイケメンでムカつくな。ち!そもそもその可愛い子、詩って子……お前の何?」 「……えーと他人?玲二のクラスメイトで、玲二の仲いい友達」 「はぁ?玲二君の友達なの?……で、玲二の隣にいるイケメン第二号は?」 「菊っち。玲二の彼氏さん」 「「えええ!!!!!!?」」 !? 屋内の事を知ってるんだろう、素で驚いている様子のこの二人の人物。 グレーのこの制服。確か私立の…… 「ぼ、僕のことは!ほっといてっ!」 急に注目を浴びて焦る屋内は、菊池の後ろに隠れてしまった。 「……えと、本当すみませんでした。俺が詩をそそのかして、一緒にコンサートに来てもらいました。詩の事はちょっと前から顔知ってて、偶然駅前で見かけて声かけて、無理やり今日の約束をしたんだ。一智と喧嘩して、めちゃくちゃ頭にきてたから。腹いせに他の奴とデートしてやろうと思って……この日の事内緒だぜーって言ったら、あいつ律儀にちゃんと守ってくれた。なんかー詩っていい奴で、ー文句いいながらも約束守ってくれるしー、怒っても全然怖くないしー可愛いしー」 「……お前なぁ」 「まさか一智がこんなことするなんて思ってなかったから!そこマジ……迷惑かけたって反省してる。っていうか一智やりすぎだっての!詩に嫉妬し過ぎ~」 そう言いながら類は、一智とかいう奴を後ろからぐりぐり抱きしめていて普通にキレそうになる。 ……軽い!軽い!!!! もっと根本的なところから猛省しろ!クソガキ!!! 兄弟なのにこんなにも違うのかと屋内兄弟を見比べて思う。 以前屋内が言っていた、詩に会わせたくないNo1というのがよくわかった気がした。 「謝って欲しい本人がこんな状態だから、今謝罪しても意味ないと思うけど?俺から言わてもらうけど金輪際、詩に関わらないで欲しいね。それに詩に酒飲ませたお前っ!お前も反省しろ!!」 「んあ?え、何、俺に言ってるの?あのさぁ俺今まで殴られたことなんてないんだけど……凄い痛ーい」 「一智……お前も悪い。殴られて当然だ」 「冗談だって冗談!シャンパンは……まぁ反省してるけど。本気でヤろうとか思ってねぇって!」 「……お前マジで詩に何もしてねぇだろうな」 「……ふん、多分してねぇよ。あ、可愛いかったから乳首は舐めたかな」 「!!!!」 「はあぁあああ!!!一智お前っ!!何してやがるっ!!!」 「あー!嘘嘘!!類ー!冗談だってっ!じょーだん!!」 怒る類を宥めながら、チラリとこちらに視線をやり、不敵な笑みを浮かべるこいつ…… 全力で抹殺してぇ…… 「んん……ぬおー」 ……下から腑抜けた声が聞こえ、そいつの髪を撫でる。 水分補給して少しはまともになってきたようだ。 「んあ……」 「……まだ顔色悪いな……大丈夫か?」 「ん?……レストランは?あれ類は!」 「は?レストラン?」 「え?何何で霧緒いるの?え、ここ……どこ?」 詩は身体を起こし、辺りを見回すと、屋内や菊池がいるのに更に頭を混乱させているようだった。 状況が飲み込めない様子だったけれど、俺としては一刻も早くここから立ち去りたい。 こんな奴らとは一秒たりとも一緒に居たくないと思った。 とりあえずこれまでの詳細をざっと詩に伝える。 「詩ーーーーー!!!本当ごめんーー!!!!」 「???何かまだよくわからないけど、玲二く苦しい。でも俺もゴメン……ちゃんと玲二に言っておけばよかった」 「うちの弟がまさか詩と接触してたなんてっ!帰ったらマジ説教。宮ノ内先輩も、本当すみませんでした!」 「屋内が悪いわけじゃないから。あ、でもあいつの説教は頼んだぞ。拷問で」 「はい!!!おまかせくださいっ!!!」 敬礼する屋内から詩を取り戻し、再び腕の中に。 こうしていないとイライラして落ち着かない。 「詩ー!!本当!マジでゴメーン!!」 類がその場から大声で謝罪する。 こちらに近づくと色々ヤバいとわかっているようだ。 そう、近付いたら問答無用にぶっ飛ばす。 反省しているように見えるが、俺からしたら人の恋人を騙した奴なので、反省していても許さないけどな。 「類ー!お前玲二に伝えたって言ってたじゃーん!馬鹿ー!嘘つきー!」 「ごめん。本当ごめん!もう…嘘つかないから。あ、二度と誘わないから……」 「ああ言ってるけど、霧緒?」 「当然っ!!」 「容赦ないな。改心するなら許してあげればいいのに……」 「はあぁ?!無理だろ」 「か、改心するっ!改心したら詩!俺と友達になってくれるー?!!」 !!!! 「お前一度死んでこーーーーーーーい!!!!!!!!!!」 俺よりも恋人よりもキレた、兄玲二のゲンコツが類にさく裂した。

ともだちにシェアしよう!