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第276話
「じっとしてまーす……」
また怒られてしまったので、もう大人しくしていよう。
「………詩…」
「……?ん」
「もしかして……キスされた?」
「え」
不安げな声に思わず振り替えると、霧緒の表情は怒っているような悲しんでいるような、複雑な顔をしていた。
な、なんて顔してるんだよ……
これは予想以上に傷口が深いのか……ふ、深そうだ。
あれ、でもこれって……
これは怒っているのではなくて…拗ねているのか?
いや、あの霧緒くんがそんなまさか!
でも怒っているというよりも、不安で仕方ないという感じだ。
本当に?ちょっと……やだ可愛い……い、いや!俺の馬鹿!拗ねてる霧緒にキュンキュンしてんじゃねぇ!
そう思ったら俺の妄想は止まらなくて、非常識に顔が緩んできてしまう。
い、いかん!反省すべきは俺なのに、こんな気持ちになっちゃ駄目だ!
「うわー!交代!!」
「は?」
「風邪ひくから早く湯船入ろうぜ!」
怒ってるのか拗ねているのかわからない霧緒を、無理やり座らせ、さっきしてもらったのと同じようにシャンプーをしてやる。
身体も恥ずかしいけど洗い合って湯船へと身体を沈めた。
「はぁああ……温かい。ほぐれるー!」
「……もっと丁寧に、身体も洗いたかったんだけど」
「まぁまぁ、十分綺麗になったから」
「……」
後ろから身体を抱き寄せられると、心がホっとする。
素肌が触れ合うと愛おしさが込み上げてくるし、霧緒の胸に寄りかかると本当幸せで、はぁ……とため息が零れる。
やっぱり他の奴とは違う……全然違う。
類にはくっつくなってあんなに言って拒否したのに、霧緒にはそんな嫌な気持ちは全くない。
むしろもっともっと触って欲しいって思ってしまう。
……
「霧緒ー、俺……キスされた!」
「な!」
「おでこと、首に……あの一智って奴に。もう洗って綺麗になったけど」
「洗ったからとか関係ねぇだろっ!」
「うん、そう……関係ない!もっともっと怒って霧緒!俺っ……気持ち悪かったから!」
湯船の中、霧緒に抱き着いて力一杯抱きしめた。
ザブンと湯船の湯が飛沫をあげる。
霧緒の前で上半身が良く見えるように膝立ちをする。
「こことここ。こっちは触られて超嫌だったとこ。って皆嫌だったけど。あー覚えてるとこは、これくらいだけど」
「……」
「……我慢はできるけどさ。やっぱり嫌なものは嫌だし」
霧緒の濡れて滴る前髪を、指で掻き上げてやる。
真っすぐ見つめる瞳は揺らぎ、俺の指さした部分を凝視していた。
「……あの……あれですよ。あれ……」
「……」
「え、ええと……霧緒に、い、いっぱい触って……欲しいなと。触られたとこ……もあの!そうじゃないとこも……いっぱいいっぱい触って欲しい……す……」
「……」
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