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第278話

「可愛い」 「……あの……なんかちょっと変」 「何が変?」 「だって食べさせてくれるなんて、今までなかったじゃん」 「したくなったんだから、いいじゃん?ほら」 「うん……」 無機質な顔が微笑んでいると、言い表せない妖艶な雰囲気が漂う。 それにドキドキしながらも、嫌な予感がしている自分がいるのだ。 何故なら、優しい時の霧緒には注意が必要だ。 有無を言わせない雰囲気を醸す中、大人しくモグモグと与えられるものを素直に食べた。 スープも飲ませてもらい、口が汚れたら綺麗に拭きとってくれるサービス付きだ。 そして霧緒は自分の分は自分で食べてしまい、俺にはアーンさせてくれなかった。 「ほら、詩おいで」 リビングのソファに腰かけるように呼ばれ、霧緒の隣に座ると、耳元の匂いを嗅がれて優しく抱きしめられる。 首筋に顔を埋めたり髪や背中を撫でたり手首を軽くもんだりと色々触ってくるのがくすぐったい。 隣同士に座っていた体制から、今は横になった霧緒に抱きしめられ、添い寝状態になっている。 さすがに男二人でソファに横になるのは狭いかな。 今も髪の毛を優しく撫でられていて、若干ワンコになった気分だけど……何だろうこれ…… 仰向けになると、左側に霧緒の香りがふわりと香ってくる。 一緒に風呂に入って同じシャンプーとボディーソープを使っているのに、俺とは少し違う匂いがする。不思議だなぁ…… 「詩は今日、色々触られたんだろう?」 「う、うん」 「そか……」 「お、怒ってますか?」 「勿論怒ってるよ。許さないって言ったじゃん」 うおぉ…… そうか、まだ許してくれてないのか。 そうだった。俺の彼氏はしつこい男だったんだと思いつつも、今回は全面的に悪いのは俺なので、ちゃんと許してもらいたい気持ちでいっぱいだった。 これは一体どうしたら許してもらえるんだろう。 聞きたいけれど、聞くのが怖かったりもする。 「どいつもこいつも詩のこと可愛いって言ってたな……」 「……そう?」 「言ってたよ。ムカツクくらい」 「可愛いって言われてもよくわからない。俺は男だし」 前髪を触られたり、鼻を摘ままれたりされながら今日の出来事を振り返る。 仰向けになってると天井のライトが眩しく仕方がないので、霧緒の胸に顔を寄せた。 「俺は詩のこと可愛いって思うよ。恋人だからな」 「!!!!」 ぬ、ぬあああ!! 硬直するような一言に衝撃が走る! な、な、なに言ってんだー!そんな恥ずかしいこと平気でいいやがって!!! でもカッコいいから許すー!!って思う自分馬鹿! 「すげー顔……真っ赤だけど、どうした?何を今更恥ずかしがってんの?」 「だ!だ!だって」 「可愛いな……ほら顔こっち向けって」 「ぐぬぬ……」 恥ずかしくて、目を閉じ歯を食いしばって霧緒に顔を見せると、「ぶさいく」って言われてしまった。 「でもそういうとこも可愛い……」 「も、もの好きぃ……マニアック」 ふっと目の間が暗くなったので、瞳を開けてみると、霧緒が俺の上に覆いかぶさっていた。 逸らすことのできない距離で視線がばっちりと絡む。 だ、駄目だ……さっきの言葉に俺の心臓は射貫かれていてしまって、面白いギャグも気の利いた発言も出てこなかった。 か、カッコいい…… 「もの好きって、今更かよ。どんな詩も俺には可愛いくて、愛しい恋人なんだよわかる?どこのどいつかもわからない奴に、気軽にカワイイとか言って欲しくねぇんだよ」 「……」 「ベッドの上で詩に馬乗りになってるあいつ……マジで殺してやりたいって思った。あれ見て許せるわけないだろ?あんな状況を作ったお前を俺は許さない」 「……どうしたら……許してくれる……」 「……」 「……」 「俺しか見れない、一番可愛い詩を見せて?」

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