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第294話 *

霧緒 「きゃーーー!!」 真っ暗闇の中、一部の不気味な赤いライトだけが頼りの室内。 呪われた保健室からは、やたらリアルに怖がる絶叫が響き渡っていた。 何故ならそこ担当の俺が、すこぶる機嫌が悪いからだ。 こんな俺の機嫌を急降下させる人物はただ一人なんだけど、当の本人はその自覚がないのがまたムカつく。 ……クソ…… メイド服をなぜ着ることになったのかは分からないけど、メイド服を着るなら俺のいるところで、俺の目の前で着るべきだし脱ぐべきだし、他人にそれを見せる必要は全くない。 今まさにその姿になり他人の目に去られていると思うと、イライラしてくる。 以前うちで着た、アリスのコスの詩を思い返してみるけど、あれはまじエロ可愛いかった。 あー……メイド姿の詩を小脇に抱えて帰りたい。 「はぁ………」 イラつきながらため息をつくと、暗い保健室に誰かが近づいて来る気配。 きゃっきゃと話し声が聞こえてくる…… 「やーん、結構暗いよねー」 「ねね……次じゃない?宮ノ内先輩」 「うそーここ?こっちでいいのかなぁ」 何枚も薄いカーテンが垂れさがっていて、それを掻き分けて進む侵入者。 出口までの通過点でしかないけれど、それまでどうにかして怖がらせるのが役目だ。 顔に血糊で血まみれメイクされているので、俺だと気がつかない奴も多々いる。 イライラし面倒くさくて、暗闇の中でスライムを思い切り投げつけた。 「ぎゃーーーー!!!」 「いやーーー!!」 ……って心理的ではなく、物理的攻撃で逃げ出していくのが定番と化していた。 あー……驚かすのにも飽きたな。 しかし持ち場を抜け出すこともできるわけもなく、ただストレスだけが溜まっていった。 お化け屋敷は学園祭の定番で、廊下には何十分待ちのだとかの列ができているようだ。 放棄したら宗太が怒るだろうしなぁ。もう昼だし……やめたい。 流れ作業で侵入してくる奴らを脅かしていく。 こつんこつんと近づく足音…… はぁ……次はどう脅かしてやるか。 距離が近くなればなるほど、赤いライトによってカーテンに移る影が大きくなる。 侵入者は暗闇に目が慣れていないのもあって、カーテンの裏に俺がいることに気がつかないのだ。 さっさと終わらせて、詩のところに行きたい。 侵入者が進行方向に迷い、立ち止まった時の隙を狙うと効果的だ。 !! カーテンの隙間から勢いよく侵入者の腕を掴む。 「ぎゃーーー!!!」

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