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第295話 *
霧緒
「ぎゃーーーー!!!」
何度も聞いた、お決まりの悲鳴が響き渡る。
ん?……この悲鳴……
バッとカーテンを捲ると、その侵入者は白目で半泣き状態になった詩だった。
そして言ってた通りのメイド姿。
!!!
思わず掴んでいた腕を引っ張り、狭いカーテンの裏に引っ張り込む。
「どわー!お、おばけっえええ!!!ぞぞぞゾンビゾンビ!」
「詩っ!俺だ俺!」
「うぎゃー!……え」
目の前に顔を近づけても、血糊メイクを施してあるので、すぐにはわからなかったようだ。
っておい……そんなにわからねぇのかっ!
「お、お、おーーーー?あれ?霧緒」
「……わかったか」
「お、おう。あービビったぁ~俺死んだって思った。なんだよその顔~」
「そこまで思うかよ……で?なんでメイド服?」
メイド服姿の詩を自分の膝に乗せ、改めてその姿を眺めた。
頭には白いフリフリの飾りと、よく目にする紙で作る花をつけ、白いエプロンに、黒のワンピース……その下にハーフジャージ。
ジャージを履いてるならまだ……まだギリ……ギリ許せる。
膝に乗せたまま、腰に腕を回して抱き締めた。
そして漂う甘い香り……
「うちの調理場が壊滅的で、急きょ俺がワッフル作り担当になったんだよ。で、これが調理場のコスチューム」
「へぇ……」
「うちの実行委員が着ろ着ろうるさくてさー。あ、玲二は今菊池先輩のとこ訪問中!サプライズ成功って……変なとこ触んなよ」
膝にお座りしている、詩のスカートに手を侵入させて、ハーフジャージの下に滑り込ませた。
引き締まった細い腰の体温が、冷えた指に伝わり気持ちが良い。
「……人に報告だけして、こんな格好で学校うろうろしたのか?」
「うろうろって……ずっと仕事してたんだよ!予定より早くワッフル売り切れて、一番にここに来たんだからな。全然うろうろしてねぇ!むぐっ……!」
「シ!人が来る」
会話を中断し、カーテンの向こう側の気配を探る。
屋内か?と思ったら、どうやら次の侵入者が来てしまったようで、会話が聞こえてくる。
……つーことは、屋内は宗太に捕獲されたかな?
そう思いながら自分が捕獲した恋人を、改めて見つめた。
頭の花飾りが詩のアホさを演出していて悪くない。
詩は次の侵入者の気配に緊張し、気づかれまいと身体を強張らせているのがわかった。
口をへの字にし、身体を俺にもたれさせてくると、甘い香りが更に濃くなる。
「ど、どうするん……」
「……」
耳元で不安げな詩に囁かれると、ふわりと柔らかな吐息が耳にかかる。
あ、それいいな……
もう来る奴なんか無視して、このままここでイケナイことをしたいとか考えるけど、明らかにこの狭い空間では無理な話で、せめてキスしたいと思ってしまう。
強引に詩の顎に指を添え、顔を向けさせてみる。
え、っていう表情のまま視線が合い、そのまま時が止まっているかのように見つめ合った。
戸惑いで揺れる瞳を確認すると、ちょっと意地悪なことをしたくなる。
……そのちょっとした一瞬が、たまらなく好きなんだ。
そのまま少し顔の角度を変え、唇を重ねようと……
「はーい!ストーーーーープ!!」
シャッ!っと、勢いよくカーテンがを開けられた。
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