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第296話
宗太
あいつの持ち場から聞こえてくる悲鳴。
あ、ども!菊池です。
学園祭が始まり、俺らもそれぞれの持ち場で今日の仕事をこなしてるんだけどね。
ほら、俺実行委員やってるから、全体を把握しながらやってるんだけどさー、クラスの皆よくやってくれてると思うわけですよ。
おかげさまで「廃校学園」って名前のお化け屋敷は大人気で、開始早々順番待ちの長い列ができて好調な滑り出しだった。
少し心配していた、エロ……いや霧緒の持ち場も、どういう訳かスゲー怖いらしいし。
準備の途中から急にやる気になったのか、偉い気合入ってたな。
俺の持ち場の理科室は、保健室の手前にあってちょっとオカルトっぽい。
悪魔祓いをするのに拘束したがる狂った理科の先生。
演出のためのノコギリとかハサミとか超常現象っぽくチカチカする赤いライトとか……ま、細かいことはいいんだけどさー。
俺は俺でこの与えられた役割を楽しんでいる訳よ。
「きゃ、やだー!菊池先輩じゃないですかー!」
「あ、ばれたー?はいあっちに進んでねー!足元気をつけて」
血まみれの白衣を着ていても、俺って人がいいから本当に怖がってくれる人少ないんだよね。
俺って本当人気者。
……ってそういうのも、正直疲れるんだけどさ。
あいつにもこいつにもいい顔してる自分が、たまにしんどくなる時もあるけどさ。
こういう性格だから仕方がない。
はぁ……うちの屋内くんは何してるかしら。
魔導士の仮装をするって言って、楽しみにしてたから、萩生と一緒にわいわい楽しんでいるのだろう。
そろそろ昼だし、俺たちも休憩に入る頃だ。
しかし流れ作業みたいに次の客が入ってきて、途切れる気配がない。
すでに次に入って来る人の声がした。
「あ、理科室!……菊池先輩きたー!」
「や、やっぱりさ帰ろう!詩……駄目だよ。着替えてから来ようよ……」
「今更?今になって恥ずかしがってんのか?」
「だだだだだって!!」
……
?
この声は屋内と萩生っぽい。
来るって言っていた時間より早いな。
「ほーらもっと奥へおいでよ。じゃないと先に進めないぞーーお二人さん」
ニヤニヤしながらワザと妖しく呟き招き入れる。
「じゃ、ここは任せた玲二!俺はお先に進むからな!」
二人の姿を確認すると、頭の機能が一瞬でストップする。
??
あーーーーと?何この子達?
「どもども先輩!こちらの子、サプライズプレゼントっす!どうぞどうぞ!」
そう言いながら、女の子な格好した萩生は脇を通り、さっさと奥へと消えて行ってしまった。
そして目の前で、どうしたらいいのかわからない状態の、メイド服姿の屋内が佇んでいる。
「……屋内くん?」
「……」
「えーと、ほらこっちこっち」
「……あ、あの……」
「どしたの?その可愛い格好は」
カチンコチンに固まる屋内だけど、何この格好。
うちの屋内くん、とっても可愛い過ぎて、俺の頭が混乱してるんだけど!!
「あ、あの……!この格好でまさかここに来るとは思ってなくて、えと事情があってこの格好でワッフル作り手伝うことになってしまって!でもって詩が、絶対先輩喜ぶからって来たんだけど、こんな格好……先輩に見せるなんて……は、は、恥ずかしすぎて……何がなんだかもう……」
「ふ」
羞恥心で何言ってるかわからない屋内は本当困ってるようだけど……駄目だ……胸が痛い。
我慢できなくて優しく引き寄せ、やんわりと抱きしめる。
ごめん!魔導士の衣装より、メイド服姿の屋内ポイント高すぎっ!!!
「ぎゃーーーー!!!」
「!!え、今の詩?」
大きな叫び声が聞こえたけど、確かにあれは萩生だな。
はっとして頭を上げた無防備な屋内に、すかさずチュッとキスをした。
「……その格好とっても可愛い!全然いいよ」
「!!」
「……やらしいこと……したくなるね」
「え!ええ!!?」
真っ赤になったうちの屋内くんが本当可愛くてヤバい!
このままあんなコトこんなコトしたい!!
あ、
……って俺が思うって事は、あっちも同じコトになってんじゃね?
実行委員としては、ここでイチャイチャされても困るわ。
イチャイチャしたいのは同じだけど仕方ない。
「屋内、こっちおいで」
二人で奥の保健室を目指した。
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