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第301話*

霧緒 詩に下着とハーフジャージを履かせ、半袖の体操服を着せる。 ワンコの着ぐるみは、手足を入れて前のボタンをぱちぱちと止めるだけの簡単なものだ。 フードが犬の顔になっていて被ると何かワンコと目が合う。 ……よくこれを着ようと思ったな。 これを着たいと思ったこいつが凄い。 袖を気にしつつ、両手をにぎにぎしている後ろ姿から、彼のテンションが上がっているのが顔を見なくても良く分かった。 メイド服を着ていた時とは全然違う。 「どう?」 どうって聞かれても困るか………と思いながらくるりと振り返る詩の表情は、一言で言うとスゲー嬉しそうだ。 ぶーーっと吹き出しそうになるのを必死で堪え、何とか感想をひねり出し伝えれば、さらにテンションがあがったみたいで、ルンルンしている。 摘み上げてポイっと捨てたメイド服を、慌てて拾い上げるその姿が大分コミカルで面白かった。 「それ着て動くと何か面白いな」 「面白い?」 「んー犬っぽくていいってことかな」 そう言うと、ぱああぁあと明るい笑顔にで無駄にわしわし動き始める詩。 ……ちょっと、意味わからないくらい可笑しくて面白くてクソ可愛い!! まさかこんなダサい着ぐるみを着た詩が、こんなにも可愛いだなんて誰が想像すんだよ! 明らかにダサい着ぐるみは、俺の人生に関係のないアイテムなのに、この恋人のせいでダサい着ぐるみよ有難う!みたいな感謝の気持ちが生まれてしまったじゃねーか!! そのワンコ顔のフードから覗く詩の顔が、生き生きキラキラしてて、本当可愛いくてツラい。 そう思うのは、こいつに惚れてる俺だけかと思ったら、周囲も同じようで校内を歩いているだけで詩は注目を浴びていた。 俺が注目を浴びるのは毎度のことだからいいんだけど、隣でルンルン歩いている俺の詩が注目されるのは不本意だ。フード被っているおかげで周囲の様子が分かりにくいってのもあり、そのことに本人が全く気付いてないのが幸いだ。 詩に話しかけてくる女子たちは、確実に詩に興味を持っていて面白くない。 本当ムカツク。 「お前ら邪魔だからついてくんな」 そう言って追い払った。 女子はブーブー言いながらも離れる。 しつこい奴らは少し距離を置きながらストーカーのように着いて回った。 「……何か、頭にくんなぁ……」 つい口にしてしまった言葉を詩が拾う。 「相変わらずの人気だな。まぁ、慣れたけどさ」 人気なのはお前だ! バーカ!バーカ! 人の気も知らないでこのワンコ!! 適当に食べるものを購入し、空いている椅子を見つけてそこで遅い昼飯となった。 「あーこれこれ!これ食べて!」 フードをとり笑顔の詩から渡された紙袋の中にはシンプルなワッフル。 「お持ち帰り用にしたから生クリームは邪魔でつけられなかったんだけど美味しいと思う」 そう言いながら、へへっと照れながら笑うのを眺めつつぱくりとかぶりついた。 あ、 「うまい」 「おお!マジ?」 「ん、冷えててもうまいよ」 焼いてから時間が経っているので、サクっとはしていないけど、しっとりしていて美味しい。 お世辞はなしで。 「そっか!よかった!!今度ちゃんと焼きたての食わすから!」 「ん、よろしく」 ワンコの着ぐるみ姿の詩は、色気は全然ないけれど目が離せない。 色気があるといえば、おろしたフードから覗く細い首とうなじだ。 学食ではじめて詩と会った時のことを思い出す。 その時もうなじが綺麗でつい見とれてしまった。 あどけなくて表情豊かで、言動が気になって、面白い後輩だと思っていたら知らぬ間に気になる存在になっていた。 柔らかな優しい性格かと思ったら、それだけではなく意外と頑固で男らしい。 つき合いづらい性格の俺といても、常に自然体でいてくれて、そんなところにも惹かれた。 そんなレアな子は同性だったけれど、好きになって後悔していない。 ついでにこいつとするセックスが気持ちイイ。 こんなふざけた服着てるのに、さっきまでエロ垂れ流して、あんあん俺とセックスしてたなんて本当信じられないんだけど! クセになるんだよな……見ていて飽きないし……癒される。 根本的に俺と違う生き物なんだと思う。 目の前で大口開けて、団子を食う恋人と目が合うと、少し頬を赤らめて視線を逸らした。 あ、照れた。 そりゃそうだろう。 今の俺……スゲーいい顔してるはず。 こいつと過ごす高校生活が、残りわずかだと思うと、寂しいしついついその先の事も考えてしまう。 まぁ、詩の姉さんとも話をしているし、特に大きな壁があるわけではないけれど。 それにやっぱり卒業するのは寂しいし、心配だ。 モテはじめているこいつが大いに心配だ。 クソ…… 俺の恋人だからそりゃモテるのは当然だろう!と思う反面……面白くない。 …… 軽く溜息をついて、かけていた眼鏡を外す。 「詩……」 「んー?」 「帰ったら一緒に風呂はいろうぜ。詩くんの身体、スゲー洗いたい……」 「ぶーーーっ!!!」 最高色っぽく囁くと、盛大に飲んでた茶を噴きだした。 そんな恋人を可愛がりたくて仕方がない! 学園祭編 終わり

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