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第307話 クリスマス編6 こちらフロント

フロントから失礼致します。 今日も明日も1日中仕事。 ホテルの利用客の、さまざまなリクエストに応えるのが、ホテルフロントの役目でございます。 そしてコンシェルジュはフロント周辺に常駐し、ホテルの利用客のさまざまなリクエストに応える専門職。お客様が気持ちよく利用していただけるよう、常に笑顔で応対させていいただいております! だからクリスマスだって言うのに! はい、私仕事してます! お仕事最高っ! 今日はイブだけあって、カップルの予約が多い。 確かにうちのホテルは雰囲気もいいし、料理もサービスだって良い。お値段もそれ相応でございますので、彼女様にも喜ばれること間違いなし! しかし、つまらない。 上品な笑顔でお客様に応対する裏で、自分の心が冷え込むのを感じでいます。 あらまあ、仲良しなカップルで幸せそう。 おやまあ渋い旦那様とエレガンスな奥様。 あ、どうしようこのカップル、クリスマス後早々に別れそうだわ…… ……… !! ああ……駄目よ!!こんな荒んだ気持ちでいては! フロントで内なる悪魔と戦っていると、 「すみません。今日、予約を入れている……」 「はい。お名前よろしいでしょうか?」 ……!! ひっ! いやぁ超……美形っっ……! 目の前に超イケメンな青年が立っていた。 今月一番!下半期一番?今年のトップ3に入るイケメン度!! 「萩生です」 「はい……萩生様。お待ちしておりました。本日二名様でご予約承っております。こちらにご記入をお願い致します。」 クールな感じで、さらさらと申込書に記入していく姿をガン見……じゃなくてっ! 優しい笑顔で見守る……って! 身長あるのに顔小さいし! モデルさんかしら? 黒いダッフルコート、中は白シャツに黒いセーターがよく似合っている。 サラサラとしたストレートな前髪が、やたら色っぽく感じた。 ……ヨダレが出る!! 記入した申込書を見ると、予約した萩生詩は彼ではないようで、どうやら彼女の方らしい。 彼は宮ノ内霧緒って言うのね。 しかも二人未成年だわ。 しっかり保護者の同意書二枚を提出していただいたので何の問題もない。 夕食や明日のチェックアウト時間などの説明を一通りしながらも、何故か興奮している自分がいた。 「本日プレミアムフロア スーペリアのお部屋になります」 「はい」 「こちらがカードキー、12階3号室になります。どうぞごゆっくりお過ごし下さいませ」 軽く会釈し、立ち去るイケメンの後ろ姿をぼーっと見守った。 歩く姿も自然体でカッコ良すぎだろ! この部屋のベッドはキングダブルタイプだ。 これは是非とも是非とも彼女の姿を拝みたい! どこっ!? 立ち去るイケメンくんは、右側のエントランスに消えたので、恐らく彼女はそこのソファーに座っているのだろう。 客室に向かうエレベーターは、フロントの前を通らなければならないので、フロントに立ち業務をこなしながら、ソワソワと二人の姿が見えるのを待った。 するとスラリとした彼の姿が現れる。 そしてその後ろから、ひょっこりとついて来たのは、細身なボーイッシュな女の子…… あら? 女の子ではなく男の子だった。 ブラウンのチェスターコートに、グレーの丸首セーターと黒のスキニーパンツに白いスニーカーを履いて、少し大股気味に歩いてくる。 行く方向を間違えたのか、イケメンくんにコートの襟を引っ張られている姿が何とも面白い。 クールなイケメンくんとは違い、表情豊かで遠目で見ていて可愛らしさを感じた。 そう思って見ていると、フロントの前を歩くその子と目が合う。 軽く会釈すると、くりっとした瞳をパチパチさせ、ペコリと丁寧にお辞儀をしてくれた。 …… なな何あの子、超可愛いっーーー!! 好印象すぎる! え、ちょっと待って? ってことは…… 今夜はあの子と、キングダブルに一緒に寝るって言うの? 今日クリスマスイブだけど……? 男同士でお泊り? ちょ、 ちょっとま! 寝るって…寝るだけ? いや!お客様に対して失礼な妄想するな! え、でも寝るだけじゃないだろ? キングよキング!クリスマスよ! そりゃ!そりゃヤるだろ! ヤる方が萌えるだろ!!妄想は自由だろ! 冷え切っていた自分の心が、一気にキュンキュンし、やる気に満ち溢れてしまった。 カウンターの下でこっそり拳を握る。 12階3号室……萩生様、宮ノ内様…… …… おお神よ!! この日に萌えを有難うっ!!! 今日も明日もっ! 全力で仕事させていただきますっ!!

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