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第322話*
霧緒
その着ている厚ぼったいダウンジャケットを脱がしたい。
「はー!動いてると暑いっ」
そう言いながら詩は首に巻いていたマフラーをとってしまった。
細い首が露になり、綺麗なうなじが視界に入ってきて思わず見いってしまう。
さすがにジャケットは脱がないか……
「日が射してるから動くと汗かくよな」
そう声をかけると「んだんだ」と言いながら頷く姿が可愛いんだけど、頬と鼻が赤いのがまたさらに可愛い。
………舐めたい。
「あぁ……腹減ってきた。詩~終わったらうちで何か作ってよ」
「ん、いいよ。何がいいかな親子丼に牛丼に焼き肉丼……うあー!考え出したらお腹空いてきたー!」
「……その後で、詩くん本人も食べたいなぁ」
「!!」
「位置付けはデザートが理想」
「!!」
赤い顔が更に赤く、驚きで開いた口がぱくぱくしてて変なの。
「……返事は?」
「あのな!こんなところでんな冗談言うか!?ここ道路で歩道で家の前!は、恥ずかしいだろっ!」
はーん、今更恥ずかしいとか言うんだ。
別に大声で話してるわけでもないのに、何故そんなに動揺するんだか……
それに冗談じゃねぇし。
「そう?じゃあ前菜がいい?それともメイン……」
ついぃ…と少し濡れた手袋を外し、詩の顎を親指で撫でた。
焦りながらどう答えようかと動揺し、揺れる瞳がまたいとおしい。
「……デ、デザート」
「……」
「……は、でも苺がうちにあるから俺は、ぜ、前菜かな?あ!い、いやしかし……腹が減っては戦はできないから……ってオイっ!しないしない!」
……ぶつぶつ呟きながら真剣に悩みはじめた。
前菜でもデザートでも食べれるならどっちでもいいんだけど……ちっ駄目か。
「とりあえず、もう雪かき済んだし中入ろうぜ。風邪ひくわ」
「そうだそうだ!!今大事な時期なんだからそんなエロエロしてる場合じゃない!体調第一!俺あったかいの作るから!先に入ってろ!俺片付けて来るから!」
スコップ片手に一度椿家に戻った詩は、直ぐに白いプルオーバーとジーンズ姿という軽装で宮ノ内家へ。
食材を入れた紙袋を手にしてうちに上がり、キッチンで昼飯の支度に取りかかる。
詩の実家と椿のばあちゃん直伝の詩は料理は、はっきり言ってとても旨い。
毎日生活の一部としてやっていたのがわかる手際の良さで、俺には到底真似できない。
こういう時は、頼りになって良い男っぷりを発揮するんだよな。料理している詩はカッコいいと思う。
うむ……
……嫁だな。
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