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第323話*
霧緒
自分の為に料理している恋人の姿を見るのは嬉しいものだ。って詩と付き合ってから知った。
「霧緒~ちゃんとうがい手洗いして、予防しておかないとだぞ。インフル流行ってるし」
「ん」
話ながらテキパキと包丁片手にトントン調理していく詩の姿を横目で見ながら、言われた通りうがい手洗いを済ませる。
……この家に自分以外の誰かがいるのは不思議なことだとふと思う。
以前付き合ってた女も知り合いも、親友の宗太ですらいれたことがない。
でも詩がいることは、はじめからあまり違和感がなかった気がする。
ふんふんと鼻歌を歌いながら、どんぶりにご飯をよそう姿を眺めつつ、詩と初めて会った時のことを思い返していた。
風が強くて寒い日に、菓子折り持って引っ越しの挨拶にやって来たんだ。
ぐるぐるに巻いたマフラーで顔は全然見えなかったし、あの時は何故かイライラしていてかなり冷たい対応をした記憶がある。
そして立ち去る時に獣ー!と叫んでいたことを思い出した。
「ははっ」
その時の詩を思い出してつい笑ってしまった。
「……な、なに?思い出し笑い?」
「ん、初めて詩がうちに挨拶に来た時のこと思い出してた。お前スゲー緊張してた気がしてさ」
「あーあの時かぁ。あの日、外出たらめっちゃ寒くて震えて、上手く喋れなかったんだよなぁ。出て来た霧緒スゲー怖かったし、てっきりお姉さんが出て来ると思ってたから」
「………なんで……お姉さん?」
「霧緒んちに初めて行った日に、制服着たお姉さんが入って行くの見かけたから、それでてっきりそのお姉さんが住んでると思って。はい、親子丼の完成ー!お吸い物つき!」
「ふーん。よく思い出せないな……いただきます」
「はーい。いただきます!」
どうやって作ったのかわからないけど、旨い親子丼を頬張りながら、モグモグと幸せそうにぱくついている詩を眺めた。
詩は厳しくたくましく育てられただけあって、箸の持ち方や食べ方もきちんとしている。
だから目一杯頬張っていても、綺麗に食べるから見ていて気持ちが良い。
「……あんさぁ……あの時のお姉さんはさぁ……霧緒の……彼女……だった?」
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