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第324話*
霧緒
「ん?」
幸せそうに食べていた詩が、ふとそんなことを言い出したので直ぐに反応出来なかった。
「……えーと」
詩のモグモグしている口元が少し尖っていて、どうやら拗ねているようなんだけど、ぶっちゃけそんな女思い出せない。
他人の顔も名前も覚えるのは苦手だ……
えーと、誰だ?
俺んちに来るなんて、マジ空気読めない女……
……
ああ……そういえばいたな。来たな……
「彼女じゃねぇよ。知らない奴。お菓子作ったから持って来たとか言ってたかな。手作り菓子、俺が受け取らないって知ってる筈なのに、しかも自宅に直接持って来たから、あの時スゲームカついた気が……」
「へーーそうなんだ。手作りお菓子……」
「そうお菓子。俺がチーズケーキ好きだっていうの女子たちの間では有名な話でさ、たまにいるんだよな作って持ってくる奴。って、いつまで拗ねてんだよ。知らない女にヤキモチ妬いてんの?……可愛い~」
ムスっと面白くない顔して話を聞いてる詩が可愛いし、かなり前一度来ただけの知らねぇ女に嫉妬とか……
スゲー嬉し過ぎるだろ。
「ヤ、ヤキモチとかじゃないし。そんな大分昔のこと……だし?俺と霧緒が知り合う前のことだし?はは……あはは!」
「にしてはスゲーつんつんした態度。口まだ尖ってるぞ」
「ぐぬぅ」
「そういえば詩に、チーズケーキ作ってもらったことないよなぁ。食べたいなぁ詩の特製チーズケーキ」
ぱくっとデザートの苺を食べ終え、食器を重ねてシンクに下げる。
詩が食事を作ってくれるので、洗い物をするのは大体俺の仕事だ。
それでも調理中に使って調理道具は詩が片付けてしまうから、俺がする洗い物は少ないけど。
「……手作りのお菓子は受け取らないんじゃないんですかー?」
「恋人の詩くんからならOKだけど?」
「お、お、お、おうそうかそうか、チーズケーキかぁ。美味しいよなぁ~チョコじゃないけどなぁ……うむ」
「……ん?なんでそこにチョコが出てくんの?」
「え、だってさぁ。もうすぐバレンタインデーじゃん」
……
「……あぁ…あのイベント……」
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