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第332話 菊池のバレンタイン
菊池
あいつが言っていたように、バレンタインの前日に屋内からメッセージが来ていた。
俺の事を気遣う内容と、少しだけ会いたいという内容だった。
…
はぁ…
少しだけってどれくらいよ…
…ぶっちゃけさぁ…
…
少しだけで済む自信がない。
男って皆エロいんだよ知ってるかーーーー!!
『放課後一緒に帰ろう』
そう返信し、バレンタイン当日の今日。
「菊池せんぱーい!これ私の気持ちでーす!」
「ちゃんと食べてくださいねー!」
「ありがとう……」
あーまたもらってしまった。こんなところで突っ立ってると目立つよな。場所考えればよかった。
そうだった。バレンタインはバレンタインだった。
屋内から貰う事だけで頭がいっぱいで、世間一般のイベントだということをすっかり忘れていた。
本日何個目のチョコを貰ったんだろう。
放課後、屋内と待ち合わせ場所の昇降口にいるんだけど、ここに立ってから3個目のチョコを後輩から貰ってしまった。
「……先輩ってやっぱりモテますね」
「っ!」
ハッとして振り返ると、そこにはマフラーを巻いた屋内が立っていた。
「ごめんなさい菊池先輩。ちょっと遅くなりました」
「……いいよ。気にすんな」
久しぶりに会った屋内が少し眩しくて、パッ視線を逸らしてしまう。
相変わらず眠そうな目元にはクマができていたけど、そんなクマでさえも可愛いと思えてくる。
小さい唇に何度もキスしたなぁとか一瞬でそんなことを思い出してしまってドキドキしてくる。
…
あ、やばい……なんか俺、緊張してる…?
二人並んで下校なんて、スゲー久しぶりで何を話していいか思いつかない。
屋内ってこんなに背低かったっけ?こんなに細かったっけ?歩くペースこれでいいか?早いか?普段気にしないようなことが頭の中をぐるぐる回っていて正直全然……余裕ないっす。
「……あの先輩」
「えっ!な、なに!どぉうした?」
歩きながら横を歩いている屋内から声をかけられてそれだけで心臓がドキンと跳ねた。
上ずった声に少し驚く屋内の顔が、可愛くてマジ可愛い。
「えと、忘れないうちに渡しておきます。これ……僕が作ったんですけど、よかったら食べてください」
「これってチョコ?屋内が作ったの?」
歩きながら小さな茶色の紙袋を手渡された。
その中にはラッピングされた丸い箱……
「はい、これ頑張って詩に教えてもらいながら作ってみました!味ちゃんとチョコなんで大丈夫です!」
「ちゃんとチョコ……はは……ありがとう」
「も、勿論!先輩限定ですっ!」
照れながら微笑む屋内の表情に、自分の心がホッとするのがわかった。
……変わってない。
こんなに自分のことでいっぱいいっぱいで、恋人のことをほったらかしにしている俺のことなんて、もう好きじゃないんじゃないかとか、心変わりしてしまったんじゃないかと、内心不安だった。
「……屋内からのチョコ……マジで超嬉しいわ。大事に食べるから」
「はい!食べてください。それと……」
「ん?」
「僕の事もっ!食べてくださいね?いつでも大丈夫なんで!」
!!!!
ゴ……!!!
「!!イッーーー…っ!!」
可愛い恋人の発言が衝撃的過ぎて、目の前の電柱に激突した三年菊池宗太……左おでこを強打。
ほ、本当にこの子ってば!!!
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