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第334話 菊池のバレンタイン3
屋内
それからはもう足早に……
手首を掴まれたまま、電車に乗り込む。
丁度二人分空いた席に座ると、菊池先輩は深くため息をついた。
「あーーまったく。今までの我慢何だったんだろうって思うくらい……」
「は、はい……」
「さっきの衝撃で、これまで覚えたあんなのこんなのぶっ飛んだ気がするよ。どうしてくれるの屋内さん?」
「え!」
「なんちゃってねー」
そう笑いながら僕の肩に寄りかかってじゃれる菊池先輩の姿は、周りの乗客から好奇な視線を集めていて少し恥ずかしくなる。
普段から好感持てる菊池先輩は、堂々としていてやっぱりカッコ良くて、こんな僕にじゃれてる姿も注目されてしまうんだろう。
何をしてもカッコいい……
「先輩、おでこ大丈夫ですか…」
「んー……駄目かも。イッてえ……屋内に治してもらわないと無理~。あ、ほら降りるぞ」
電車がうちの最寄り駅に着いて慌て下車した。
「先輩……?」
「早く屋内んち行こう。まだ家誰もいない時間だよな?……類がいてもまぁいいや……」
「……あの、え……まさか」
「まさかのまさかに決まってんでしょ?もー!我慢しないから!こんなムラムラした状態で家帰れっていうの?酷い」
背後から両肩をしっかり掴まれて押されながら駅を後にした。
え、本当の本当に?本気?
「だ、だけど菊池先輩はまだ……!」
「それ、屋内が言っちゃうの?さっきあんな事言っておいて!信じられない!」
「!」
「チョコも食べるから安心して?」
そんな会話をしながら、屋内家のマンションまでやってきた。
本当は俺んちの方が邪魔が入る確率は低いけれど、ちょっとそこまで持たせる自信がなかった。
問題はあいつ。いないで欲しい……あの中坊、いないで欲しい。
……
「おーう兄ちゃんおかえり……?ってあれ?菊っちーーー!」
くっそーーーー!いた!!!
玄関を開けると、奥のリビングからポテトチップスを食っていた屋内の弟の類が顔を覗かせた。
「る、類……っ!」
「お 邪 魔 しますっ!」
「あれあれ?菊っちお久~!もう受験おわっ……うわっ!」
どかどかと類のところまで向かい、まだ短髪の類の頭を鷲掴みする。
何が起こっているか分からない、目が点状態の類の顔を凝視して……
「類……いいか?……邪魔……するなよ?先輩の言ってる意味、お前なら分かるよな?」
「へ」
「……」
「お、おうぅ……」
……類の口から、ポテトチップスの欠片がポロリと落ちた。
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