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第342話 宮ノ内のバレンタイン 5

正直マジでびびった。 そりゃそうだろ、遠くから近づいてくるカップルの片方が自分の彼氏だったわけで…… 見た瞬間、ズキンって心が傷つくのを感じた。 そんな事ないってわかっていても、気分は最悪だしイライラしてくるしで、怒りを込めて思い切り笑顔で出迎えてやろうと思ったのだ。 怒った時の華江姉ちゃんをイメージした。 内に輝くなぎなたを振りかざし、メラメラと燃えさかる炎が見え隠れしている。 あれは怖い……幼い頃は余りにも怖すぎて、ちょっとちびったこともあるくらいだ。 俺に気がついた霧緒の瞳が一瞬きょどったのに満足したんだけど、それでも怒りはおさまらない。 しかーも! 怒ってる俺を見て、こいつは笑って嬉しそうにしてる! ば、馬鹿にしてんのかぁ! イケメンだからって俺は引き下がらないぞっ!って思うんだけど…… 「嫉妬してくれて嬉しい……」 「ぬぅ……」 女を目の前にして、あんな恥ずかしい事言われて……お前のこと好きーって瞳で見つめられたら、怒るに怒れなくなってたじろいでしまう。 実際……嬉しい事言われちゃって心がキュってなった。くそぅ…… 「で、詩くんが持ってるそれ……チョコじゃね?」 霧緒の視線が俺の持っている紙袋をみつめて呟いた。 そう、今日はバレンタインデーだ。 紙袋には学校で女子から貰ったチョコが入っている。 「いくつもらった?」 「……ン?8個」 「はい、回収~」 「ええぇ!何でっ!?」 「は?まさか食うの?酷……し か も 手作りだぜ怖ぁ…………で……食うの?」 「チョコに罪は……」 「……」 「く、チョコ、美味しいんですぞぉ………」 「変な顔するな。俺が美味しいやつ買ってやるから」 先程の憂いを帯びたラブラブ視線は消えて、今はいつも通りのクールな霧緒に戻ってしまった。 「そ、そういう霧緒はどうなんだよ!毎年沢山貰ってるんだろー!」 「貰ってる、でも食わないぞ。毎年処分してるから。今日が試験日で良かった。学校行かなくて済んだから、今年は少なくて済む」 コンビニに入りながら、撫でられてくしゃくしゃになった髪を整える。 店の籠を手に取って前を歩く霧緒を、バイトの女の子の店員がガン見していた。 目立つのは慣れたけどさ、やっぱりカッコいいんだよなぁ霧緒は。 自慢の彼氏でもあるけど、それだけモテるってことなので今さらだけど俺って不安だったりする。 ……さっきみたいな輩に狙われる!! くっそぉー! どこからでもかかってこいやー!! この阿婆擦れめー!! 「ウッター、また変な顔になってるぞ?お、このアイス新作じゃね?」 「え!どれどれっ!?」

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