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第5話 徳重の家

   *  エアコン設置個所を指定すると、店主は脚立を設置して準備にかかった。  玄関も縁側の窓も開け放たれている。以前、ここで過ごした頃と家具の配置はまるで変わらない。縁側には以前はとっていなかった新聞紙が積まれていた。  庭のトマトときゅうりが爆発しそうなほど熟れている。ニワトリは屋根ではなく、日陰の土砂付近で、「誰?」という顔をこちらに向けていた。  物干し竿にはカラッカラに乾いたタオルとTシャツ、シーツが干してある。住人を特定できるものは一つもないが、干し方が徳重だと思った。  部屋の中は減ったものも増えたものもない。敷きっぱなしの布団はマットレスごと壁に立てかけてある。風通しをしているのだろうか。徳重の痕跡を確認できて安堵する。  夏休みに田舎の祖母の家に遊び来たようなワクワク感がある。……そんな思い出はないけれど、そんな感覚。ふわふわするような、まさに浮かれた気分というのはこのことだろう。  はしゃいでいると思われないように、エアコン取付をしている店主から離れ、家のあちこちを眺めた。  3か月も音沙汰なしで、突然来たことをどう思うか、急に不安になった。  それ以上考えないように、目がやられるほどの太陽を直視した。  窓を閉め、エアコンの試運転をする。店主がリモコンの説明をしながら、冷房に切り替えた。冷蔵庫を開けると麦茶らしきものと、お新香があったので、店主に出す。  たったそれだけの準備をしている間にも茶の間はすっかり冷えていた。やはり冷房がないと都会人には無理だ。  お新香で母親を思い出したから、実家で一泊して帰るわ、と店主が言った。帰路、不審な者に待ち伏せされてたらという危惧を、口にする前に。 「懐もあったけぇから、久々にオイラも休暇するわ」  気の利く店主で本当に良かった。何度目かのお礼をし、深く頭を下げて見送った。    *  エアコンのリモコンを見ると、13時を過ぎていた。  コンビニで買った食事は二人分のつもりだったが、店主がほとんど食べてしまったため、もう空腹も忘れていたが、そろそろ本当に何か食べた方がよい。スマホの電源もあのコンビニで切っていたが、再度オフになっていることを確認して上着にしまうと、キッチンの椅子に掛けた。  庭に出て、熟れた野菜を採り、流しの桶で洗う。井戸水なのか、水道は夏でも冷たい。冷蔵庫を開くと鮭の切り身が一つあった。色を見て、賞味期限は大丈夫と判断した。先ほど研いでおいた米を炊飯器にセットし、鮭を放り込んでスイッチを入れる。  寄生してしんどかったのを思い出す。  徳重が買い物をしないから、肉や魚、酒もない生活だった。野菜ばかりの日々だったために、ラーメンが置いてあったときは迷わずパクった。3個あるのだから、一個くらい…と思いつつ、やはりこの味は捨てきれないと、備蓄用にもう一個。誤魔化しきれない物の紛失は、それが一番明らかだっただろう。ここまでしたら家探しされるかも……。危機感から徳重が帰ってきた時、あの北の部屋の小さい押し入れの方の天袋で身を潜めてみたが、杞憂に終わった。  トマトを切って塩を振り、きゅうりは一口大にちぎって塩もみし、冷蔵庫で冷やす。奥からショウガの残骸らしきものを見つけ、干からびた部分を切るとまだ使えそうなので、(おろしたいところだが、おろし金は見つからなかったので、)包丁で叩いてから細かく刻んだ。焼きナスにしよう。  フライパンを取り出したら乾燥ワカメが出てきた。味噌があったはず。庭にもう一度出てネギを抜き、店主が少しばかり残してくれたお新香も一緒に細かく切って、味噌汁の種を作った。

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