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ハル2

 「どう?良かった?」 ペットボトルの水を飲みながらアレンが聞いて来る。気持ちよかったのは確かなので、頷いてお礼を言う。 「あぁ。ありがとな。そろそろ出ようぜ?JUNのライブが始まる。」 オレは、物置に常備されているティッシュとウェットティッシュで処理をし、下着とズボンを直してから外に出る。 そしてトイレがある通路に出て・・・ 天使に会った。 エントランスで年齢チェックをしているので二十歳は超えているはずだが、高校生くらいに見える。身長はオレより十センチは低そうだ。細身の体にTシャツを着てパーカーを羽織り、ボトムスはタイトなカーゴパンツにスニーカー。いたってシンプルな格好。垂れ目がちで甘い顔立ちと少しふんわりとした髪型の男の子。 だがオレには天使に見えた。 純真無垢なオレだけの天使・・・ 何故かそう思ってしまったんだ。 オレが立ち止まっているので、背後からアレンが抱き付いて来て何か喋っていたが、適当に話を切り上げ今日はもう付き合う気はないと告げる。何やら文句を喚き散らしていたが、全く耳に入って来なかった。  オレは天使を追ってトイレに入る。幸い他には誰も居なかった。 用を足し終え手を洗っている天使に話しかける。 「ねぇ、君、見ない顔だけどこういうパーティーに初めて来たの?」 「へっ?!ぼ、僕ですか??!」 周りをキョロキョロと見渡す天使・・・うん、可愛い。 「は、はい、そうです。あの・・最初にDJされてたハルさんですよね?カッコよかったです!!」 おぉっ?!天使からまさかのお褒めの言葉が?!! 「ホント?嬉しいなぁ!君の名前は?」 「僕は咲山友希(さきやまともき)です。トモって呼んでください。」 「トモくんだね?」 「あっ、トモでいいです。くん付けは幼い頃の呼び名でちょっと恥ずかしいので・・・」 そう言って本当に恥ずかしそうに目を逸らすトモ・・・くうっ!!マジ天使じゃね??!!! 「じゃあ、トモ?ここに来てるって事は二十歳過ぎてるんだよね?お酒は飲める?バーカウンターに行こうよ。一杯奢るし。」 「いえいえいえ!そんなわけには・・それに僕、まだあんまりお酒飲んだことなくて・・・」 「じゃあソフトドリンク飲みに行こう!トイレでずっと話してるわけにもいかないでしょ?」  ちょうどトイレに人が入って来たのでトモを連れ出した。 バーカウンターの近くにはソファがある。空いている場所にトモを座らせ、何が飲みたいか聞く。かなり遠慮をしていたが「言わないとカクテル持ってくるよ?」と強引に押すと、「・・・ジンジャエール」とか細い声で言った。 いや、だから可愛いってっ!!! ジンジャエールとビールを持ってソファに戻る。他の人も座っているので、わざと詰めて体をトモに密着させて座る。 「じゃあ、カンパーイ!」 ビールの缶とジンジャエールのグラスを合わせ、オレはまずはビールをあおる。 「トモは今日誰かと来てんの?」 「い、いえ、僕の周りにはこういう音楽が好きな友だちがいなくて・・ナンパ目的でクラブに行ってる友だちはいるんですが、そういうヤツらとは一緒に行きたくなかったんです。だから、先日やっと二十歳になったし、思い切って一人で来てみようかな?って・・・」 一人かよ?最高じゃね??!いや、危なかった。オレ以外のヤツに目を付けられる前に保護出来て良かった・・・ 「そうなんだ。テクノとかハウスが好きなの?」 「はい。動画アプリでJUNのライブを見て衝撃を受けたんです。最初に見たのがテクノ寄りのハードな感じだったから、その後でそういう系の曲を探して聞きまくりました。 あっ、ハルさんて海外のネットレーベルからJUNと同じコンピアルバムで曲出してますよね?僕、あのコンピ買ったんです! あの曲、僕大好きなんです!!」 目をキラキラさせながらオレの曲を好きだと言うトモ・・・   あぁ、オレはこの瞬間、恋に落ちたんだ。

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