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ハル3
「光栄だなぁ。あっ、そろそろJUNが始まる。行こうぜっ!」
オレは片手でビールを持って、もう片方でトモの手を握る。そしてフロアの人混みをかき分け、スピーカーからの音がちょうどバランス良く聞こえる場所にトモを連れて行った。
フロアのど真ん中よりちょっと後方くらい。うん、小さいハコだし、ここからでもステージはよく見える。今日の音の鳴り方だとここがベストポジションだ。
今までプレイしていたDJがかけた最後の曲が終わり、ブーンという野太いアナログシンセの音がフロアに鳴り響く・・・
あぁ、これ。この音なんだよ。
パソコン一台でライブが出来るこの時代にそぐわない、数台のアナログシンセ。
もちろんパソコンにも接続してるんだけど、アナログシンセを直接触って出す音は・・・何と言うか迫力が違う。前世代の化石みたいな音だってバカにするヤツもいるが、オレはこの音が好きなんだ。
おまけに今日はオレが大好きなダブからのスタート。BPMが遅めのゆったりとした重厚な曲に、低音がビリビリ効いていて体が痺れる。それに合わせてオレもゆったりと体を揺らし、音に同化して行く・・・
次のは、低音を効かせたままブレイクビーツが入った「踊れっ!」って感じのダブステップっぽい曲。そしてその後は四つ打ちのテクノになっていく。
リハでも聞いてカッコいいなって思ってたけど、やっぱりライブはそれ以上だ。気迫に満ちたジュン様の色気と存在感がヤバい。それに伴って音にも深みが増している。
そう、今日のJUNはブレイクビーツ寄りのテクノセットなんだよ。
トモ、JUNの初ライブが好きなテクノで良かったな!
そう思ってふと隣を見ると、感激のあまり涙ぐんでいるトモがいて・・オレは愛おしさのあまり腰に手をまわし抱き寄せてしまった。
びっくりした表情のトモの耳元で、
「生JUNは最高だろ?」
って囁けば、満面の笑みで頷く天使・・・
あぁ、オレ、完全にトモに惚れたわ。
こんな感情、今まで知らなかった。
いつだって男も女もオレの周りに群がっていたし、求められてSEXするのが当然だった。オレから求めてしたSEXなんて何回あったんだろう?咄嗟には思い出せないくらいご無沙汰なのは確かだ。
猛烈にトモを抱きたい!!
こんなに切実に欲するのは・・・もしかしたら童貞を捨てた時以来かもしれない・・・
けど今はJUNのライブ中。音に集中したいのに、トモが気になって仕方がない。だがそのトモは・・生JUNの初ライブに夢中のよう・・・くっそっ!!ジュン様に嫉妬だよっ?!!ジュン様だからしょうがないけどさ・・・頼むからオレのトモを魅了しないでくれっ!!!
少し冷静になろうとトモの手から空になったコップを取り、ビール空缶とともに壁際にあるテーブルに置きに行く。ここに置いておけば、空いたコップや缶は定期的にスタッフが回収してくれるからね。
フロアの中に戻ると、最初は見入っているだけだったトモが体を揺らし始めており、途中からは「堪らない」といった感じで完全に踊り狂っていた。暑くなったからか、パーカーを脱いで腰に巻いている。
・・脱ぐ瞬間を見たかったな・・・って、変態かよっ?どうしたオレ?!
そんな感じで最初はトモが気になって音に集中出来なかったオレだが、いつの間にかJUNの音にどっぷりとハマり、トモと同じく踊り狂っていた・・本当にジュン様には完敗だよ・・・
JUNのライブが終わったので、トモに「休みに行こう」と声をかける。汗ばんで上気した顔で、目をキラキラさせているトモ。興奮冷めやらぬって感じだな・・うん、可愛い。
再度ドリンクバーに来て、トモに何を飲むか聞く。
「えっと・・・僕、何か興奮してて・・・ちょっとお酒を飲んでみたいなって思うんですけど・・・」
・・・ちょっと待って??警戒心とかないのっ??!マジでオレが保護して良かったわ。チョロ過ぎんだろ・・・こういう可愛い男の子をすぐに食いそうな男の顔が二、三人浮かぶ。まぁ、そいつらからすりゃオレも同類だって事になるんだろうが。
ダメだ。今日は絶対トモから目を離さない。あいつらに食わせてたまるかっ!!
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