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ハル4
「じゃあ、とりあえず水飲んでから薄めのカクテルにしたら?汗かいてるし、今の状態のまま酒飲むと、一気にまわってすぐに酔っ払うと思うよ?」
そう言ってオレは、ミネラルウォーターのペットボトルを買ってトモに渡す。
「あっ、ありがとうございます。これお金・・・」
千円札を二枚オレに押し付けて来るトモ。「いらない」と言ったがあまりにも恐縮するので、とりあえず千円だけ受け取った。
明らかにホッとした表情でペットボトルの水を半分くらい一気に飲み干すトモを見て、オレは自分の英断を自画自賛する。
あのまま酒を一気してたら80%くらいの確率で倒れてたよね??あ~ホントオレがトモを見つけて良かった・・・
水を飲んでトモも少しは落ち着いたようなので、オレは自分のビールと薄めに作ってもらったモスコミュールを買い、トモを促して再度ソファーに座った。
「ほら、ジンジャエールベースのお酒、モスコミュールだよ。薄めにしてもらったけど、少しずつ飲むようにね。」
「はい」と笑顔で受け取って、恐る恐る唇をコップに付けるトモ・・・だから何でいちいち可愛いんだよっ?!
「・・・美味しい!!」
「それは良かった。一気に飲んじゃダメだよ?で、顔を見てたら大体分かるけど、生JUNはどうだった?」
「はい!!もう言葉に出来ないくらい感動しました!!!ハルさんのDJの時から思ってたんですけど、低音ってあんなに体の芯まで響くんですね?!
何て言うか・・最初のダブからやられました。僕、BPMが速めの四つ打ちばっかり聞いてたんですけど、ダブにブレイクビーツが入った曲があんなにカッコいいなんて・・・」
「うんうん。すごく分かるよ。オレも最初は四つ打ちのテクノの方が好きだったから。けど、こういう所で大音量で聞くと低音にハマるよね。オレもダブが好きでブレイクビーツものも好きだから嬉しいよ。ダブステップもいいよな!」
「ハルさんのDJもゆったりめのダブが多かったですもんね。最初、フロアに来た時にも低音の凄さにびっくりしたんですけど・・・あ~僕、ブレイクビーツにハマりそうです。ドラムンベースはそこまで好きじゃなかったんですけど、JUNのようにロックっぽい?曲にブレイクビーツが入るとめちゃくちゃカッコいいんですねっ!!ダブステップも聞いてみます!」
おぉ・・・キラキラ度が増してる・・・
「あっ、何かすみません・・僕、興奮しちゃって・・・こんなふうに音楽の事を話すのって初めてで。一人で検索して聞いてるだけだったから・・・
あっ、あの、もし良かったらおススメのブレイクビーツもの教えてもらえませんか?」
おっ!ナイス展開!!オレは曲を教える名目で、トモとメッセージアプリのIDを交換出来たんだ。
「分かるなぁ。好きな音を分かってくれる人と話すのってすごく楽しいよな。
けど、この手のパーティーに通ってるヤツらは大体そんな感じだよ?最初は友だちと何人かで来てても、居着くのは本当に音楽好きなヤツばっかりだから。」
そんな話をしていたら、このパーティーの常連たちがオレを見つけて声をかけて来た。
「ハル!何?かわい子ちゃんを誑かしてるの?ねぇ君、ハルはヤリチ・・・」
「うるさい!マジで黙って?!」
ヤリチンはまだしもビッチまで言われたら言い訳しにくいからな。
オレの本気の顔に空気を読んだのか、一緒にいた一人がそいつを連れて撤収してくれた。
なのに続いてよりによって、ジュン様が専属PAのレンさんと一緒にバーカウンターに来たんだ。
「おっ?ハル、可愛い子を連れてるじゃねぇか?お前、こんな純情そうな子を毒牙に・・・」
「わ~!わ~!!ジュン様やめて?!こ、この子はトモ。今日初めてクラブに来たけど、前からジュン様推しなんだって!」
オレも焦っているが、トモも硬直している。
「へぇ?トモ、ありがとうな!」
「はっ、はひぃ・・・・」
トモの頭を軽くポンと叩いて去って行くジュン様・・・触らないで欲しい・・・
トモはしばらく固まったままだったが、ジュン様の姿が消えると大きく息を吐いて、オレが止める間もなくモスコミュールを一気飲みしたんだ。
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