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第5話

 三十分後、夏樹は深い溜息と共にプールサイドに出た。 「うおお! 思った通りだ! 夏樹、めっちゃ可愛いじゃん!」  待ちかまえていた市川が飛びついてきたので、軽く平手打ちをして距離を取る。それでも懲りずにスカートをめくってくるので、思いっきり脛を蹴飛ばしてやった。さすがに痛そうだった。 (くそ……変態教師を甘く見てた……)  なんだかまた市川にハメられた気がする。跳び箱補習事件から学習したつもりだったのに、市川の変態っぷりは常に夏樹の一歩上を行っているようだ。 (まったく……なんで俺がこんな格好……)  自分の姿を見下ろし、再び溜息をつく。  女性用の水着を着る羽目になったこともそうだが、それを違和感なく着こなせてしまっている自分もちょっとショックだった。もともと小柄で肩幅もなく、運動嫌いで余計な筋肉がついていないせいか、背格好は女性モデルとさほど変わらない。ちゃんと化粧をしてウィッグを被れば、完璧な美女に変装できるだろう。 (それもどうなんだか……)  ブサイクと罵られるよりはいいが、男としては複雑だ。もし自分がこんな容姿じゃなかったら、市川にも捕まらずに済んだかもしれないのに。 「じゃ、まずは準備運動な。ちゃんと身体解しておくんだぞ?」 「……はいはい」  仕方なく夏樹は、市川の動きを真似てストレッチを行った。  ま、こんなこと今更考えても仕方がない。自分の容姿は変えられないし、市川と付き合っていることも事実である。それに、この変態教師について行ける相手なんて俺くらいしかいないだろう。  前屈運動をしていたら、市川が感心したように口笛を吹いた。 「それにしても夏樹、ホントに身体柔らかくなったよな。どこまで脚開くようになった?」 「とか言って、また変なマッサージするつもりでしょ。その手には乗りませんからね」 「いやいや、ホントに感心してるんだって。一八〇度開脚できるようになった?」 「……少しだけですよ?」  夏樹はプールサイドに座り、脚を一八〇度に開いて上半身を前にぺたんと倒した。 「おおっ、すごい! めっちゃ柔らかくなってる! 前は九〇度くらいしか脚開かなかったのに」 「一応、努力してますからね」  身体を柔らかくしておかないと市川に抱かれる時、脚が開かなくて大変なのだ……という理由は、絶対に言わないけれど。

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