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其の参

どう出る? 私の言葉で 春太はどう動く? 春太の触れた場所が熱い。 まるで 焼き鏝で烙印を押されたように 熱い。 何時からだ? 春太の言動が気になりだしたのは・・・。 初めて 春太が私の部屋に挨拶に来た時 一瞬 空気が揺れた。 私は それに 何故か 恐れを感じ 「うるさい」 その言葉で 己の心を封じた。 もう・・・ 要らない。 これ以上・・・ 恐れなど要らない。 眼が見えなくなって 永久の闇の中 たった独りで 生きてきた。 誰も見えない。 己の姿さへも見えない。 肌で 感じた物だけ。 耳で 聞いた音だけ。 鼻で 嗅いだ香りだけ。 それが私の世界。 その世界に誰か入り込むことなど 許せなかった。 私をこの闇に 葬っておきながら 今更 この闇に光など必要ない。 だから 闇一色だった私の世界に 突然、現われた 春太の存在が 許せなかった。 否 違う。 空気が揺れた瞬間 春太が 私の中に入り込んだ。 春太の声が 春太の香りが 春太から感じられた 柔らかな空気が 私の闇に光を灯した。 それが 私は怖かったのだ。 きっと この先 春太を 私の世界の中に 許してしまうであろう その 己の心に恐れを感じたのだ。 認めたくない感情・・・ 私は 永久に続く闇の中で 独り 生きていることが さみしかった。 嗚呼 それを その感情を 春太に 一瞬で思い知らされ 私は苛立ったのだ。 「春太・・・抱かないのか?」 私はもう一度云う。 本当は 私が 春太に 触れたいのに。 春太に触れ あの日、感じた 春太の柔らかな空気で 私を包んで欲しかった。 もう・・・ この闇の中に 独りで生きるのが 辛かった。 誰もが 壊れものを扱うように 私を扱う。 実の両親でさへそうだ。 私はそうして 眼が見えぬだけでなく 他人の心も見えなくなった。 けれど 春太は・・・ 春太は ずっと 私だけに仕えてくれた。 私にだけ心を砕いてくれた。 だがら 私は 春太に 触れたい。 触れて 春太の全てを知りたい。 私は 肌で 指で 唇で 触れなければ 春太を感じられないから。 まだ 一度も触れたことのない 春太の 肌に触れ 春太の 顔を 躯を この 肌で 指で 唇で 知りたい。 春太・・・ お前だけは 私を この闇の中に 葬らないでくれ。

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