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其の伍

梅雨に入り じめじめとした毎日が続いていたある夜 恐れていたことが現実になった。 毎夜、交わしていた二人だけの逢瀬。 聡一さまには見えぬからと 首筋に一つ 紅い印を付けた。 それを見つけられた旦那様が 皆が寝静まった真夜中 離れにある聡一さまの部屋を訪れ 俺の下で乱れる聡一さまの姿を目の当たりにされてしまう。 俺はその場で土下座をし 旦那様に謝罪をする。 「何時からだ?」 旦那様の低い声が部屋の中に響くが 俺はただ、頭を畳につけ謝るしか出来ずにいると 着物を整えられた聡一さまが 「何のことです?」 冷たく云いわれ 「お前は何時から春太に・・・」 旦那様の言葉を遮るようにもう一度 「何のことを仰られてるのかわかりません」 ピシャリと云われた。 旦那様はそれ以上、声を発されることなく 土下座をする俺に 明日、私の部屋に来いとだけ俺に伝え 部屋を出て行かれた。 襖の閉まる音。 その後、直に見苦しいぞと聡一さまの声。 その声は冷たく お前などに抱かれていないと。 お前などに心は許してないと。 そう云われてるようで。 俺は土下座したまま泪を流した。 次の日 聡一さまの朝餉が終わった後 旦那様の部屋へと重い足で向かった。 「春太です」 声をかければ入れと中から旦那様の声。 旦那様の前でもう一度土下座をする。 そんな俺に旦那様はもういいと一言。 その言葉に頭を上げれば そこには困惑された旦那様の顔。 俺は胸が締め付けられた。 眼の見えぬ聡一さまを壊さぬ様に見守り 大切に育ててこられていた。 その聡一さまを使用人の俺などが手をかけてしまい どれほど情けなく どれほど辛いお気持ちだろうか・・・ 考えれば胸が痛み 「お暇させて頂きます」 そう、勝手に唇が動いていた。 それを聞いた旦那様は切なげな笑みを作られ 「聡一をどう想っている?  春太、お前は聡一をどう想っておるのだ?」 訊ねられた。 「お慕いいたしております」 短く答えるとそうかと。 「お前に暖簾分けをしてやる。  そこで聡一を一生みてやってくれないか?」 旦那様の言葉に驚く俺を見て 「聡一は眼が見えぬ。  嫁をもらって継がせる事も叶わぬ。  なら、お前に・・・  聡一を想ってくれているお前に・・・」 そこまで話されると 膝の上に握り締めていた拳が震え泪を流された。 これが・・・ 旦那様の聡一さまへの愛なのだろう。 俺は何も言葉に出来ず ただ、その流れる泪を見つめることしか出来なかった。

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