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其の漆

「父上から聞いた。  暇をとると・・・」 私はそこまで話すと唇を噛んだ。 心の中を 翔に対する想いを 曝け出すのが怖かった。 今まで私は誰にも心を開いた事が無い。 父にも。 母にも。 それを使用人である翔に 私は今 曝け出し あろうことか縋ろうとしている。 そんな事・・・ そんな事を俺は・・・ 「聡一さま・・・」 春太の低音の優しい声。 「聡一さま・・・  そんなに唇を噛み締められては傷になってしまいます」 春太の温かな指先。 この声に この指に 私は今まで守られてきた。 その声が その指が 私から離れようとしている。 私から・・・ 「い・・やだ・・・」 「聡一さま・・・?」 「許さない。  勝手に離れていくなど・・・」 「聡一さ、ま・・・」 「私を置いていくなど許さない!」 唇に当てられていた手を掴み引き寄せる。 春太の唇が私の唇に触れた。 「あっ」 春太の唇から洩れた声に 「春太、私を抱け」 命令すれば 「宜しいのですか?  使用人の俺などがまた聡一さまを穢しても・・・」 春太の唇から零れた言葉と一緒に吐く息が 私の頬を掠めて それほど近くにいるのに 春太が見えない 春太を見ることの出来ない 己の盲いた眼が憎くかった。 「いい。  お前なら・・・いい。  お前な、ら・・・」 今 お前はどんな眼で私を見ている? 今 お前はどんな想いで私を見ている? 私は・・・ お前を放したくない。 私と云う鳥籠の中から。 緩く絞められていた帯を解かれ 肌蹴た胸元に指が忍びこみ ぎこちなく這う。 その動きにも私は春太を感じて 吐息が唇から洩れそうになってしまう。 それを耐える為 唇を噛み締めれば 駄目ですと唇を押し当てられ こじ開けられる。 その隙に挿し込まれた舌が 私の舌を絡めとリ吸う。 ぎこちなく動いていた指が 胸の飾りに触れ 指の腹で転がされ 尖って行くのがわかり 恥ずかしさから手を掴もうとすれば それも制止され その指が己自身に絡められた瞬間 躯が跳ねた。 唇は首筋を伝い 鎖骨を這い 尖った飾りを舌で舐め上げられ 私は春太から与えられる 舌に 指に 翻弄されながら大きな波を迎える。 想いを吐き出せば 春太から 「本当に宜しいのですか?  俺などが聡一さまを・・・」 囁かれ 答えるかわりに 春太の柔らかな唇に 互いの唾液で濡れた唇を 私から押し当てる。 それを合図に ゆっくりと春太の指が挿し込まれ 私の中を解していく。 それはまるで 私の心も解していくようで。 少し恐ろしくなる。 私が私でなくなるようで。 だが 春太の全てを受け入れれば 不思議と安堵に包まれて。 私は初めて春太に笑って見せた。

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