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其の什弐

聡一さまから暇を申しつけられてから 半年が過ぎた。 俺は屋敷に戻り 白木家の店で旦那様の手伝いをする傍ら 聡一さまの見舞いに伺う日々・・・ だが 一度たりとも聡一さまは 俺に会っては下さらなかった。 火傷を負わせたのは松本様だと 俺の中で確信はあったが 証拠が見つからず 犯人は捕まらないまま この事件は闇に葬られた。 否、証拠が見つかったとしても 男爵家の力で揉み消されてしまっただろう。 聡一さまには別の使用人が仕えていた。 俺だけに許されていた 聡一さまのお世話を 今は他の者が・・・ 着替えを手伝う際に覗く 聡一さまのあの肌を 俺以外の者が見て 聡一さまの細い項や華奢な肩に 俺以外の者が触れている。 そして あの美しい聡一さまの手をとり歩く・・・ 俺だけに許されていた 聡一さまの 肌に 髪に 指に 俺以外の者が触れることを 許されている。 何故 何故、聡一さまは俺に会って下さらない? 何故 何故、俺を聡一さまは避けられる? 何故 何故・・・・ 頬の 右頬の 爛れた痕のせい・・・・ ああ そうだ・・・ 俺は今まで 聡一さまの何を見て 何を感じていたのだろう。 「いい。  お前なら・・・いい。  お前な、ら・・・」 その言葉が その聡一さまの言葉が 「見るな!」 そう云われた声が そう云われ震えた聡一さまの声が 全てを語っていたではないか。 俺は今まで 聡一さまの何も 分っていなかった。 否 分ろうとしていなかった。 あんなに お傍近くで お仕えさせて頂いていたと云うのに・・・ 俺は 店の机の上に置かれた針山から 縫い針を一本手に取り 着物の袖に忍ばせ 聡一さまの屋敷へと走り出した。

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