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第4話
ママには大学の頃から可愛がってもらっている。
俺のことは、なんでも見透かしたように言い当てるから、隠し事もできない間柄だった。
「…………そうだよ。でも見ての通り、追い返したから。もうこれで……完全に終わり」
「なんで追い返しちゃうのよっ。せっかく迎えに来てくれたのにっ」
「どうしてって……」
「だって彼に操を立てるくらい好きなんでしょう?」
突然ママがとんでもないことを言うから、ビールが変なところに入って咳き込んだ。
「……っは、はぁ? 何言ってんの、立てないしっ」
「嘘おっしゃい。あんたあの彼以外に男を知らないでしょ。ずっと一人の男だけ想ってるくせに」
「…………そ……んなんじゃないよ。ただ、他に好きな人ができないだけで」
本当にそれだけ。嘘じゃない。
俺だって、他に好きな人を作りたかった。
でもどんなに琢磨を忘れようとしても無理で……。それどころか、好きな気持ちがどんどん増していく。
琢磨に会ってしまったら、もっと好きがあふれて止まらなくなった。
どうすりゃいいんだよ……。
「なんであんな小芝居したのよ、馬鹿ね。話もしたことないお客にまでからんで。ノッてくれなかったらどうするつもりだったの?」
「別に。その時は、一回寝ただけの奴なんて覚えてねぇよな、って言い張ればいいし」
「もう。本当にハラハラしたんだから。……それで? どうしてあんなことしたの?」
「…………あいつはノンケだから。こっち側に引っ張りこんだら駄目な奴なんだよ」
俺なんかが、琢磨の人生を潰していいわけがない。
琢磨はちゃんと普通に結婚して、家族を作ることができる。俺なんかに寄り道してたら駄目なんだ。
「そんなの関係ないじゃないの。どこにいるかも分からない相手を、六年も好きでい続けるなんてそうそうないわよ。絶対に手放しちゃ駄目よっ」
ママが興奮したように熱弁しても、俺の気持ちは動かない。
いくら琢磨が俺を好きでいてくれても。それがどんなに嬉しくても。いくら俺が、胸が苦しくなるほど琢磨を好きでも。
俺は、琢磨の手を取ることはできない。
「……ママさ。親と連絡取ってる?」
「…………え?」
「取れてないでしょ。俺と同じで、親に勘当されたもんね。……だったら分かるよね?」
「……優ちゃん。追い返したのは、彼の家族を壊したくないから?」
「……そうだよ。俺だってすげぇつらかったのに。ノンケのあいつに……そんな思いさせられないだろ」
「なるほどな」
不意に後ろから聞こえてきた声に、身体中が反応した。
ふり返る間もなく、もう真横に琢磨が立っていて、手をぎゅっと握られる。
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