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第5話
「な、なんでここに……。まさかっ、ママが仕組んだの?!」
「だぁって。すっごい必死で、優ちゃんに何があったんだーって、会えなかった間の優ちゃんのこと教えてくれって頼むからぁ。でも勝手に話すわけにもいかないでしょ?」
「いつから聞いてたのっ」
と琢磨を睨むと、
「最初からだ」
と言い放った。
「…………っこんなの、勝手に話すよりひどいだろっ」
「だってぇ。私が誰の味方か分かるでしょ?」
「……っこの、面食い節操なしっ」
「やだひっどいっ」
ひどいと言いながら、少しも怒っていない。今にも鼻歌が出そうなほど、楽しそうな顔。
「あの、ありがとうございました。こいつもう連れていきます」
琢磨はカウンターにお金を置いて、俺の手を引いた。
「おい、琢磨!」
「頑張ってねぇ。また来てねぇ」
「どうも。また来ます」
答えながら、どんどん歩いて店のドアを出た。
琢磨はずっと手を繋いだまま、無言で先を歩く。
「……おい、手離せよ……」
琢磨にだけ聞こえるように、小声で言った。
「なんで」
「な、なんでって。外だろ。見られてるだろっ」
「俺は好きな奴とは、手を繋いで歩きたい」
「……っはぁ? どんな目で見られてるか分かってんのかよっ」
「お前が、どうしても嫌なら離すけど。俺は他人の目とかどうでもいい」
「俺は嫌だっ。……おい琢磨っ」
俺が嫌だと言ったら離すと言ったのに、琢磨は手を離さない。
近くの大きな公園の、人気のない所までやってきて、琢磨はやっと足を止めた。
「もういいか?」
「は? なにが」
「お前を抱きしめたい」
「……っば、馬鹿じゃねぇのっ。やだよ」
「お前も俺が好きなんだよな? じゃあ両思いだろ?」
満面の笑みでそんなことを言う琢磨に、苛立ちがつのる。
「お前話聞いてたんだろ? 俺はお前の気持ちには答えられない」
「俺の家族を壊せないからか?」
「……そうだよ」
「じゃあなにも問題ない。もうすでに許可はもらってきた」
「…………は?」
「お前、昔から俺の親のこと気にしてたろ。ネックはそこなのかなって思ってさ。事前に許可もらってきた」
「許可……ったって。どうせ無理やりじゃねぇの? そんなの許可って言わな……」
話してる最中でクスクス笑い出す琢磨に、ムッとして睨みつける。
「何がおかしいんだよっ」
「お前、昔となんも変わんねーのな」
「はぁ?」
「まるっきり、予想通りの反応でウケたわ」
「…………っ」
何も言い返せないでいると、琢磨がポケットから封筒を取り出して、渡してきた。
「なに……?」
「父さんと母さんから」
「えっ? 俺に?」
「お前が、信じないと思ったからな」
と、琢磨は優しい目で微笑んだ。
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