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第6話
封筒を受け取って、側のベンチに座って封を開けた。
すぐに読めるくらいの短い手紙。でもあたたかい言葉が二人分、そこには並んでいた。
『優くん、本当に私の息子になってくれるの? 琢磨でいいの? また肉じゃが食べにおいで♡』
『優、将棋の相手がいないんだよ。早く来てくれ、俺の息子! でも本当に琢磨なんかでいいのか?』
鼻の奥がツンとして、涙があふれてくる。
嘘だろ。なんで……。
実の親にでさえ、受け入れてもらえなかったのに……。
なんで他人の俺なんかを、受け入れてくれるんだ……。
「優。もうそろそろいいか?」
「……な、に?」
「抱きしめたいんだけど。ずっと待て状態なんだけど、俺」
「…………なあ琢磨。お前……本当に俺が好きなの?」
「は? 昔からずっとそう言ってるだろ」
答えながら、俺の頬を両手で包んで、親指で涙をぬぐってくれる。
優しくてあったかい、琢磨の手。
「俺男だよ……? お前女が好きだったろ……」
「うーん、それな。ただ付き合ってただけで、好きじゃなかったんだよな」
「……嘘だろ?」
「ほんと」
琢磨の顔が近づいてきて、そっとふれるように、まぶたにキスを落とす。
「俺は、今までもこれからも、優しか好きじゃない。優だけほしい」
次から次へと流れる涙を、琢磨は指で何度もぬぐいながら、次は額にキスをした。
「なあ優。さっきのあれって本当?」
「……あれ、って?」
「俺に操を立ててくれてるってやつ」
「……っは? だから違うってっ。ただ他に好きな人が現れなかっただけでっ!」
「じゃあ、本当に……俺だけなんだ。優を抱いたの」
「……そ……そう……だよ」
次は、頬にキス。
「嬉しすぎて、泣きそうなんだけど」
次は、鼻の頭にキス。
「…………琢磨……」
「ん?」
「……俺……」
「うん」
「……俺、本当に言ってもいいの……?」
「なに?」
「六年間ずっと……心の中でしか言えなかった言葉……」
「うん、教えて」
涙が邪魔で、琢磨の顔が見えない。
でも、琢磨の手のぬくもりが頬に伝わる。
手を伸ばすと、琢磨にふれられる。
もう二度と会えないと、ふれられないと、思ってた。
その琢磨が、俺を迎えに来てくれた。
まだ信じられなくて。でもすごく幸せで、心が震える。
「……俺……琢磨が……好きだよ。ずっと……ずっと琢磨だけ好きだった……」
「…………やっと聞けた」
琢磨の顔は涙で見えなかったけど、まるで破顔した顔が見えるような声色で。
嬉しくて胸が熱くなった。
琢磨の唇が俺の唇に優しくふれた。
ついばむように、何度も何度も、優しいキスが降る。
嬉しすぎて、頭の芯がしびれた。
唇が離れていって、ぎゅっと強く抱きしめられた。
六年振りの、あったかい琢磨の腕の中。
幸せで胸がいっぱいになった。
「琢磨……好き……」
琢磨の肩に、頬をすり寄せる。
「…………やばい……手の震えが止まんねぇ」
背中にまわった琢磨の手から震えが伝わる。
「……お前、どんだけ俺のこと好きなの……」
「は? 何年後しの想いだと思ってんだ」
「六年だろ」
「ばぁか。十年だよ」
「……は?」
十年って……計算合わねぇだろ。
俺だって、九年なのに……。
…………え?
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