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「あれ食べたことないな」  路上を歩きながら、自転車の側に立っている飴がけ売りを見て祐樹が呟く。 「ああ、糖胡蘆《タンフール》?」  飴がけは糖胡蘆《タンフール》と言って日本で言うリンゴ飴のようなものだが、ボリュームがまったく違う。リンゴではなく山査子《サンザシ》というピンポン玉くらいの果実を串に刺して飴をかけてある。リンゴに似た甘酸っぱい味だ。  山査子の他に山芋や苺、葡萄などが、串に最低でも7,8個、多い物は15個くらい突き刺してある。長めのみたらし団子に見えなくもない。    荷台に積んだ丸い筒に放射状にぎっしり串を刺して、路上で売っているのをよく見かける。こんな埃っぽいのに何もかけずに外にさらしているので衛生的とは言えないが、人気のあるおやつで中国人は大人も子供もよく食べていた。 「タンフール? なんかかわいい発音だね」 「食べてみる?」 「んー、今はやめとく」  かなり甘そうだし、とてもじゃないが食べきれそうにないと思ったのだろう。祐樹が首を横に振ったのを見て、孝弘はちらりと飴売りを検分する。 「そうだな。それに買うなら店をよく選んだ方がいい」  あの飴売りは却下だ。 「どうして?」 「ああいう、作り置きはやめときな」 「腐ってるとか?」 「うん。中が腐ってたりカビが生えてるときがけっこうあるから」  祐樹は半分冗談で言ったようだが、孝弘はあっさり肯定した。 「え、そんな危険な食べ物だった?」 「作ったままああやって長時間放置して売るからな。今はいいけど暑い時期は特に」 「そっか。悪くなってることがあるのか」 「山査子の中に虫がいて、齧ったら出てきて悲鳴上げたのも見たことあるし」 「それは嫌かも」 「それに時期じゃないしな」 「え? 食べる時期があるの?」  路上で1年中いつでも売っているのに?と祐樹が不思議そうな顔になる。 「あるよ」  孝弘はにやりと笑う。 「あとで教えるよ」  祐樹はよくわからないという表情になったが目的地のショッピングセンターに着いたので「うん」と返事をした。  入口を入って、次にビニールの垂れ幕をかき分けて中に入った。  冷たい外気を入れないために、出入口の内側の天井から床まで厚手の透明ビニールが下がっているのだ。ビニールには幅15センチほどで切れ込みが入っていて人はその隙間から出入りする。 「祐樹は何買いたいんだ?」 「乾燥のせいかな、最近、手とか足がかさかさするんだ」 「ハンドクリーム? ボディクリームか?」 「どっちでもいいけど。広州では買ったことなかったんだけどね」 「だろうな。乾燥と寒さのせいだよな。俺も使ってるのあるけど、別のがいい?」 「んー、特にこだわりないけど、匂いがきつくないのがいいな」 「とりあえず日用品売り場行こうか」  シャンプーや洗濯洗剤がずらりと並ぶ一角にハンドクリームや、ボディクリーム、リップなどが並んでいる。乾燥が激しい地域なので男女関わりなく必需品だから、売り場もかなり大きい。

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