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ぎっしり並んだカラフルなボトルを眺めて、祐樹が首を傾げた。
「どれがいいか全然わからない。ていうか、意外と商品多いね」
大連は祐樹が想像していたより色々な意味で生活しやすかった。商品が豊富で日用品や食料品で困ることはないし、日本食や洋食のレストランもかなりある。
「ここ2、3年ですごく種類増えたよ。外国資本が多く入って来たせいだろうけど」
合弁企業が増えたからテレビCMでも海外ブランドのシャンプーや化粧品がとても多くなった。もちろん中国製品も増えている。
そうは言っても東北地方はもともと水不足が深刻だし、乾燥した地域なので入浴の習慣がほとんどない。
自宅に風呂がついてないのは当り前で、一般的には週に1、2度、公衆シャワーに行って浴びる程度だ。労働者たちはもっと頻度が低い。
でも最近の若い人たちの衛生観念は変化しているからきっと売り上げも伸びているのだろう。
「やっぱり香り付きが多いね。フローラルブーケとかローズじゃなくていいんだけどな」
「無香料だとこれとかこれは?」
売り場であれこれ見ていたら、女性店員が寄ってきた。祐樹の外見のせいか店員は親切だった。
孝弘は口を出さずに見守ることにする。日常会話はそれなりにできるはずだ。店員は祐樹の少したどたどしい中国語をちゃんと聞いて、カウンターにいくつかお勧めを出してくれた。
北京のデパートで商品を見せてと言って、投げるように渡されたのはほんの数年前だ。店によって対応はかなり違うが、以前よりは接客という概念が浸透して来たと思う。
「これ、どういう意味? 何とか入りって言ってるみたいなんだけど」
聞き取った言葉に自信がなかったようで、祐樹が困惑した顔で孝弘に助けを求めた。
「ん? ああ、漢方成分で茯苓《ブクリョウ》入りで保湿効果が高いんだって。寝る前に塗って寝たら手がすべすべになります、美白効果もあります、だって」
早口の女性店員の言葉を訳すと、祐樹はふーんとうなずいた。
「孝弘は何使ってるの? あんまり匂いとかしたことないと思うけど」
「無香料のやつだから。ふつーのベビーオイル」
棚に並んでいる海外資本のどこでも見かけるベビーオイルを指差した。
「ああ、そう言えば置いてるね」
洗面所の棚に置いてあるのを思い出したようだ。
祐樹の部屋で過ごすことが多いから、孝弘の部屋の洗面所にはあまり来ない。
「風呂上りに塗ってるけど、オイルだからちょっとべたつくかも。持ち歩いて普段から使うならハンドクリームがいいんじゃないか?」
孝弘もバッグの中に入れている。まだ11月の初めだからマシだが、これからますます乾燥して冷え込んでくる。だから今後は必需品になるはずだ。
「そうだね。そうしようかな」
祐樹は店員お勧めの真珠パウダー入り保湿クリームとベビーオイルを選んだ。ついでにリップも追加する。部屋は加湿してあるからそうでもないが、ここに来るまでの空気で唇がパリパリした気がした。
女性店員は手早く会計をして「無くなったらまた来てくださいね」と商品を渡した。
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