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 家電コーナーには最新のテレビや洗濯機、冷蔵庫などがずらりと並んでいた。家電は壊れないと評判の日本ブランドの人気が高く、価格も中国製よりかなり高いのによく売れている。 「こういうの、使ってる人いるのかな?」  新商品と大きなポップがついたワッフルメーカーを見て、祐樹が首を傾げた。 「どうだろ。新しい物好きな人多いからいるかもな」  小麦粉に卵に砂糖だから、家でもワッフルくらい作れるだろう。 「うちで作る?」 「ワッフル? …うーん」  祐樹は「そう言えばホテルの朝食以外で食べたことないかも」とあいまいな顔だ。 「広州時代?」 「そう。香港のホテルとか。朝食バイキングの洋食、わりとおいしかったな」 「そうか。…また香港、行きたいな」  今年の夏、祐樹と行った香港を思い出した。初めての二人きりの旅行で、途中色々アクシデントというか予想外のことは起きたけれど、でもとても楽しかった。 「いいね。なんか大連からだとすごく遠く感じる」 「まあなあ。広州や深センに比べたらな」  歩いているうちに、食器コーナーに辿りついていた。  赴任したばかりのころは食器を選んだり鍋を買い足したりすることが結構あった。生活に密着した物を選ぶって、生活に対する習慣や価値観がかいま見える気がする。 「あ、ちょっと待ってて。欲しいVCDあったんだ」  祐樹がそう言って、VCDコーナーに入っていく。  こうして買い物に来ると二人で暮らしているみたいな錯覚をおこす。実際、ほとんど一緒に暮らしている状態だけれど、いつか本当に一緒に暮らせたらいいなとも思う。  見るともなくVCDのパッケージを眺めながら祐樹の買い物を待っていると「上野さん」と声を掛けられた。 「ああ、水元さん。こんにちは」  同じビル内に事務所を構えている日本企業の駐在員だ。  昼時の食堂でもよく会うし、10月の駐在員ゴルフコンペでも一緒になったので時々会話する仲だった。  すこし小太り(大連に来て太ったと本人は言っている)で垂れ目のせいかにこにこした感じが周囲を和ませる。32歳と聞いているが雰囲気のせいか若く見えた。 「買い物ですか?」 「ええ。高橋さんがハンドクリームが欲しいと言うので一緒に来たんです。それでぶらぶら見て回ってて」  店員と話している高橋の後姿を見て、水元は「通訳ですか、休日なのに大変ですね」とうなずいた。 「ついでに私も買い物しますから、大変じゃないですよ」  そうですか、と水元はやはりにこにこしている。 「大連は乾燥すごいですよね。上野さん、喉は大丈夫ですか?」 「部屋では加湿器使ってます。のど飴も必需品ですけど」 「やっぱりそうですか。僕も洗濯物、部屋干しにしてるんですけど、もうびっくりするくらいパリッと乾くんですよね」  大連駐在2年目という水元は朗らかに言い、買い物を終えた祐樹が来るのを見て「こんにちは」と挨拶した。祐樹も人当たりのいい笑みを浮かべる。

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