「それは思う。趣味かと思って話してたらプロ級の腕前ってこととか結構ある」 「どんなジャンルで？」 「水墨画とか切り絵とか。あ、切り絵は櫻花公司でも扱ってる。好きなデザインで額に入れて作りますって感じの注文生産だけど」 「へえ、そんなのあった？」 　色んな商品を扱っているんだと、祐樹は驚いたようだった。 「ネット限定だからあんま知られてないけど、じわじわ注文入るよ」 「そうなんだ、今度見てみる」 　 　あれこれ買い物を済ませた帰り道、孝弘は屋台で足を止めた。中のカウンターで糖胡蘆《タンフール》を作って売っている店だ。 　目の前で串がどんどん飴につけられて、飴がけができていく。孝弘はじっくりチェックして1本買った。数が少ない物を選んだが、それでも7個の山査子が串に刺さっている。 「はい、味見してみる？」 「うん」 　時期じゃないって言っていたのに？と思った祐樹が戸惑いがちに受け取るのを、孝弘はいたずらっぽい顔で見ている。 「なんか企んでる？」 「いや。時期じゃない味を確認してもらおうと思っただけ」 「そう？　なんか祭りっぽいね」 　一番上の赤い山査子に歯をたてる。 　かりっと飴の割れる音がした。 「おいしい？」 「うん、まあまあ」 　飴は甘くて山査子は甘ずっぱくて、ほぼ予想通りの味だ。まずくはないが特に食べたいと思うものではない。自分で買うことはないかもな、と祐樹は思う。 「実は本当においしい時期は真冬なんだ」 　歩き出しながら、孝弘が種明かしをする。 「真冬？」 「ああ。昼間でも零下になるくらいに気温が下がったくらいが食べ頃」 「ってことは1月とか2月？」 「そう。その頃には今よりおいしくなってる」 「どうして？　山査子が甘くなる？」 「いや、凍ってる」 「凍ってる？」 「うん。飴も果物も凍ってシャーベットみたいになる。シャリシャリしてマジでおいしい」 　北京留学時代に中国人学生が教えてくれて、試しに真冬に買ってみたら本当においしくてびっくりしたのだと言う。 「だから真冬にだけ何度か買うんだ」 「ふーん、そんなふうになるんだ」 　祐樹は手にした糖胡蘆を見て、ふふと笑う。孝弘が食べているところを想像すると何となく楽しい気分になる。 「じゃあ真冬にもう一回、試してみる」 　零下の冬は嫌だけれど、ほんの少しだけ楽しみになった。