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#2―過去―

『アンタ一体何考えてるのよ!? 汚い、穢らわしい、今すぐこの家から出て行ってちょうだい! もう信じらんない! アンタなんか、産まなきゃ良かった……! 最低よ、母さんの大事な人を取らないで!』 あの日、学校から家に帰って直ぐ玄関の前で突然母親に顔を叩かれた。一瞬、何が起きたか分からなかった。でも、次の言葉で俺は理解した。 母親が知らない間に、俺が義父(アイツ)と肉体関係だった事が遂にバレた。今まで、ひた隠ししていた俺の努力が、水の泡になった。そして、積み上げた積み木の山が、上から一気に崩れ落ちるように音を立てて壊れた。  母は目の前で泣き叫ぶと、俺の顔を手で叩くと今度は両手で思いっきり叩いてきた。背中や腕や体に紫の痣がいたる所にできた。 母親に一方的に殴られたまま抵抗はしなかった。彼女は悲しませたのは全部、自分の所為だとわかっていたからこれくらいらは覚悟していた。でもいざ母親にその事がバレた時、俺は焦りと動揺で冷静さを保つのかやっとだった。  漠然とした状況の中で一方的に殴られて、叩かれた後。今度は左の足を蹴られて、床に倒れると今度は上に馬乗りになって両手で叩いてきた。 『痛い! 痛いよ母さん、やめて!』 『アンタさえ、最初から生まれて来なければ良かった! そしたら彼に捨てられる事も無かったし今頃はもっと幸せだった! 彼と出会ってやっと幸せを掴みかけたのに、アンタが私からその幸せを奪うんじゃないわよ!」 『母さん、やめてっ! うぐっ……!』  母親は怒り狂うと俺の首を両手で締めてきた。もうその時には『理性』も『正気』も既に失っていた。とっくに臨界点なんか通り越していた。 『あぐっ……! か、母さん……!』 まるで虫の息のように、足をジタバタさせて必死にもがいた。目の前で理不尽にも首を締められると俺は無我夢中で抵抗した。それまでも、強い憎しみが彼女を支配していた。 思わず目の前で母親に抵抗して、倒れた床から体を起こすとリビングに駆け込んだ。母は鬼の形相でドアをこじ開けると中に入ってきた。 「ゲホゲホ……! か、母さんやめてよ……!」 「うるさい! アンタなんて、アンタなんか!」 そう言ってキッチンへ向かうと、包丁を手にして向かって来た。さすがの俺も、母が完全に壊れたことがわかった。そして、俺は彼女の前で突然。大笑いした。まるで、何かがプツリと糸が切れるかのように――。  

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