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LIVEに向けて(1)
TALKING DOLL のLIVEは、
僕が加入する前から、いくつか決まっていた。
そのうちの1つが、間近に迫ってきた。
ゲネプロのその日…
僕らはまた、いつものリハスペースに集まっていた。
セトリは決まっていた。
リハも順調だった。
それでも、前のボーカル…
シキ推しのファンもいるだろうな…
果たして僕は、受け入れてもらえるんだろうか…
不安は尽きなかった。
「はあー」
僕は大きな溜息をついた。
「何、心配?」
シルクがそれを聞いて言った。
「そりやーそうですよー」
「だって、前のバンドでのLIVEの場数だって少なくないんでしょ?」
「そうですけどー」
「シキの事なら気にすることないよ」
カイが言った。
「あいつに付いてたファンはいらん」
サエゾウも言い切った。
「むしろ本物の腐女子なら、カオルを放っとくわけがないじゃんー」
みんな他人事だと思って気楽に言うよなー
「まーとにかく、演奏面で文句言われないようにしときましょう、お互いにね」
カイが上手くまとめた。
それは確かに…その通りだよな…
そこは揺らがないようにしよう。
「ハイボール飲む?」
「あ…でも今日は…」
「どうせ本番前も飲んじゃうんだからー」
「あーそうですよね…じゃあ、頂きます」
「俺もちょうだいー」
「俺にも…」
結局、いつもの感じで飲みながらなリハとなった。
それぞれ飲み物アルコールを受け取り、
「じゃあまー頑張りましょ」
って、カウンターで乾杯してから…
僕らはセトリ通りに、順番に練習していった。
きちんと歌詞を伝えること
常に、背中と腹筋を意識すること
引きと押しを使い分けること
例え、目の前の映像の世界にいってしまっても…
どこか自分を客観視できるようにしておくこと
彼らのサウンドにイかされそうになっても…
耐えること!
僕の課題はそんなところだった…
特に最後の…耐えること…が、難しかった。
それでも僕は、必死に耐えた…
で、やはり…全曲歌い終わったあとには、
その場にへたり込んでしまうのだった…
「…やっぱり難しいなー」
僕はへたり込みながら…弱音を吐いた。
「何が?全然…むしろすっごく良いと思うけど?」
横からシルクが励ましてくれた。
「勃たないで歌うのが難しいんでしょー」
サエゾウが、ケロっと言ってのけた。
「…」
僕は顔を赤くした…
「とりあえず休憩しよ」
カイがそう言って、ドラムから離れた。
途中、僕の肩をポンと叩いて言った。
「そんなに感じてもらえるって、演奏隊からしたら、そんなに嬉しい事ないよ…」
「そうそう!恥ずかしがる事ないよー」
そう言いながらサエゾウは、
ギターを下ろして僕に近寄ってきた。
「勃ったら、俺に任せてくれていいんだからさー」
そう言ってまた、僕の股間に手を伸ばしてきた。
「あっ…大丈夫です…まだ…」
僕はその手を交わして、立ち上がった。
「えー遠慮する事ないのにー」
僕はカウンターに行って、煙草に火をつけた。
「ふぅー…カイさん、おかわりください」
そして空のグラスをカイに手渡した。
と、サエゾウが、
後ろから僕の下半身に抱きついてきた
「…!!」
「やっぱ勃ってんじゃん」
「もうーやめてくださいっ」
「なんでー?スッキリした方がいいんじゃない?」
「…もうちょっと…せめてもう1回、ちゃんと通して練習しときたいんです!」
僕は真面目な顔で、キッパリ言った。
「…」
「そーだよ、サエこそ我慢しろよ」
シルクも応援してくれた。
「…はいはい、わかりましたよー。カオル怒らせるとおっかないからなー」
「くっくっくっ…ほら、サエもおかわり入れるよ」
サエゾウも煙草に火をつけながら、続けた。
「…でもさあ…俺も、カオルの歌聞いてっと、勃ってきちゃうんだよねー」
「わかるー」
シルクも、飲みながら同調した。
カイも言い出した。
「言っとくけど俺なんか、カオルの後ろ姿が常に視界に入って来ちゃうからね」
「あーそれ結構ヤバいかも…」
何の話をしてるんですか、貴方たちは…?
「まーもっかい真面目に通しとこう」
「そーだね」
そして、ひと通り煙草を吸い終え…
再び僕らは演奏の定位置についた。
「じゃー最初から、いきますか…」
「ほーい」
「オッケー」
「…はい」
スティックを大きく振り上げて…カイが言った。
「これ終わったら、容赦しないからね」
うえーん…
容赦しないって、なんなのよー
ふと見ると、
横の2人も僕の方を見て…ニヤッと笑っていた。
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