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楽しい打上げ(1)

終演後… 僕らは機材や荷物も楽屋から撤収した。 カイは、店の人とも精算を済ませた。 そして僕らは、最後に… 主催のアヤメさんの所へ挨拶に行った。 「ありがとうございました…」 「あーありがとうね、トキドル観させてもらったけど、すごく良かったよ、ビックリした」 「ね、ウチのカオル、スゴいでしょー」 サエゾウが馴れ馴れしく言った。 「うん…スゴかったわーいや、もちろん後ろの面々も良かったけどねー」 アヤメは、僕の方を見た。 僕はちょっと…ドキっとした。 「また観たい…また、呼んでもいい?」 「…他の皆が、良ければ…」 僕は、少しバツが悪そうに… そう言いながら…シルクの方を見た。 「…また是非、よろしくお願いします」 シルクは、キッパリと、アヤメに向かって言った。 「…じゃあまた連絡する。今日はホントにありがとうね、お疲れ様ー」 「失礼しますー」 彼らはそう言って、アヤメの元を離れた。 僕は、最後にもう一度…彼に頭を下げた。 「…すいません、ありがとうございました…」 アヤメは、特に何も言わなかった。 ただ、ニコッと笑って…僕に手を振った。 そして僕も…彼の元を、離れた。 「…あの子、大丈夫だったのー?」 KYのメンバーが、後ろからアヤメに声をかけた。 「あーなんか、発情しちゃってただけだった」 「なにそれ、ヤバっ…」 アヤメは、しみじみ呟いた。 「すげーバンドだな…あいつら…」 「そうなんだ、俺見てなかったー」 「メンバー全員あんなテンションで…よく毎回本番乗り切れるなー」 僕らは、店を出て…最寄りの駅に向かっていた。 「どーする?この辺で飲んでってもいいけど」 「うーん…やっぱシルクんちが落ち着くー」 「俺はどっちでもいい…」 「荷物もあるからねー」 「カオルさんは、どうがいいですか?」 「そうですね…シルクさんちが落ち着きますけど…こないだ久々の外飲み、結構楽しかったですよね…」 「…」 「とりあえず地元戻って、どっか寄るか…」 「んで、二次会シルクんちで」 「そうしよう…」 また、なんだかんだで僕に決めさせましたよね… いいんですけど。 そういったわけで、 差し当たり元気の残ってるうちに、 僕らは電車で、地元の駅に戻った。 そして、駅の近くの居酒屋に寄った。 「乾杯ー」 「にゃー」 「お疲れー」 「お疲れ様でしたー」 結局ハイボールと… ビールとレモンサワーで、乾杯だった。 「なに食う?」 「めっちゃ腹減ったー」 「いーよ、カオル好きなの頼んで」 「じゃあ…」 「俺、串盛りー」 「唐揚げ食べたい」 「あ、本日の刺し盛りよろしく」 あーそこは、主張するんですね… 他にも、揚げギョウザとか、ポテサラとか… いかにもな居酒屋メニューをいっぱい注文した。 「いやーでも、KYすごかったねー」 「うんうん…」 「写真もいっぱい撮っちゃいました」 「衣装もめっちゃ参考になったー」 え、まさか… 白塗りとか企んでないでしょうね… 「でも、あすこまで顔塗っちゃうのはねー、ちょっと勿体ないよねー」 あーよかった… 「メジャーデビューしてる訳ではないんですか?」 「メジャーデビューなんかしちゃったら、それはそれで色々めんどくさいからねー」 「むしろ、自分たちのやりたい様にやるために、敢えてしない…みたいな?」 「贅沢だなー」 「…でも、すごかったです…」 僕は、しみじみ言った。 「…そうだよなー勃っちゃってたもんな」 「…」 そうですけどー 「…あの演奏で…ボーカルの人が、ちゃんとしてられるってのが、信じられないです…」 「カオルには務まらないなー」 「確かに…」 確かに務まらないと、思います… 「でも、僕は…トキドルの方が好きです」 ショウヤが言い切った。 皆一斉に、ショウヤを見た。 「もちろん、良い絵でしたけど…なんていうか、出来過ぎてる感じがするんです。どの瞬間を撮っても、間違いないっていうのが、ぶっちゃけ…僕らにとっては、ちょっと面白くないんですよ…」 何杯飲んだのかな… ショウヤは、 既にちょっとスイッチ入ってしまった感じだった。 「その点、トキドルは…常に油断ならないって言うか…いつ良い瞬間が来るか、分かんないんです!そこが、たまらなく魅力的なんですよー」 「それって…割と普段はダメダメみたいな…」 「たまたま時々良い瞬間が来るんだ」 「大変なんだな、ショウヤ…」 「あーもう、そうじゃなくてー…この楽しさを分かってないなーみんな…」 ショウヤは熱く語り続けた。 スイッチ入ったショウヤさんて面白いな… 皆、引いちゃってるけど。

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