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一応ふたりの時間(2)

「俺、和食が食いたーい」 ちょっとワガママ過ぎやしませんか… 若干そう思いながらも、 僕は致し方なく買い物に出た。 もちろん、辛うじて在庫のあった米を、 先に炊飯器にセットしてから。 幸い、サエゾウの家のすぐ近くに、 24時間営業の100円ショップがあった。 一応、野菜や精肉も置いてあった。 ってもー 100均で買える物なんて限られてるからな… 「…」 そっか、コレでいくか… 僕は、じゃがいも、玉ねぎを手に取った。 あとは、青菜…小松菜でいいか。 そして…敢えての鶏肉。 白滝も入れるか。 で、めんどくさいので…つゆの素。 海苔。 みそ汁は、色々面倒だから、インスタントでいいか… 生野菜も食べたいな… トマトでいっか。 あとは、ハイボール缶と…日本酒も買っとこう… 24時間100均、なかなかやるなー なんて思いながら、僕は楽しく買い物を終えた。 部屋に戻ると、サエゾウはまたヘッドホンをつけて、 今度はギターを弾いていた。 「…まだ続けてるんですか?」 「ごはん出来るまで、進めちゃおうと思ってー」 …そうですか、 シルクは、一緒に楽しく作るタイプだけど、 サエさんは、意外に亭主関白タイプかもなー   なんてちょっと思いながら… 僕は、とりあえず…ハイボール缶を開けた。 そして、それを飲みながら、料理を始めた。 まずは小松菜を茹でる。 その間に、じゃがいもの皮を剥いて切っておく。 玉ねぎと白滝も切る。 小松菜をザルにあけたら、 鍋に、じゃがいも、玉ねぎ、白滝を入れて煮る。 小松菜は、冷まして切って、 砂糖、醤油、海苔で和える。 鍋が沸騰したら、鶏肉を入れて… さらに煮たったら、つゆの素で味付ける。 あとは、じゃがいもが柔らかくなるまで煮る。 ご飯もちょうど炊けた。 やかんにお湯を沸かして…みそ汁の準備もよし。 僕は食器棚を漁って、 何とか料理を盛りつけ、テーブルに並べた。 「出来ましたー」 僕は、サエゾウを呼んだ。 「え、マジで…早いなー」 言いながらも彼は、すぐに作業を中断して、 ヘッドホンを外し、ギターも置いた。 よっぽどお腹空いてんだな… 「うわーっ美味そうー!」 サエゾウは、目を輝かせてテーブルについた。 「めっちゃ和食やんー」 ごはん、鶏じゃが、小松菜の磯辺和え、トマト… みそ汁はインスタントですが… 「一応日本酒もご用意しました」 そう言って僕は、グラスに日本酒を注いだ。 「さんきゅー」 僕らは、日本酒で乾杯した。 「いただきまーす」 サエゾウは、がっついて食べ始めた。 「ちょっと味の滲みが、今一歩だと思うけど…」 「うん、大丈夫…うんまい」 バクバク食べながら、彼は言った。 「今日はいっぱいつき合わせてごめんねー」 「いや、とんでもない…大してお役に立てなくて…」 「すげーお役に立ったよーお前が弾いてくれて、ホントに助かったわー」 「…本番は、どうするんですか?」 「今日弾いてくれたやつを、もっとちゃんと打ち直してかぶせる」 「…大変な作業ですね…」 「まーね、時間はかかるけどねー。俺、割とそういうの、好きみたいー」 サエさんて…もっと雑なイメージだったんだけどな… 実はすごく職人気質なんだなー 僕も、自分の曲の音源の打込みは、経験があった。 かなり音数も少ないし、かなりテキトーな作りでも、 それなりに大変で、時間もかかった。 今回の音源だって、所詮はデモだ。 それをここまで丁寧に作り上げるサエさんって… ホントにスゴいと、心から思った。 「サエさんの事、改めてスゴいと思いました…」 「そーでしょ」 「…」 自分で認めちゃう所が、サエさんぽいよなー 「はぁー美味かったー…ごちそうさまでした」 「早っ…」 早々に食べ終わった彼は、 自分の食器を流しに持っていった。 そして、日本酒の入ったグラスを持って… また、PCの前に座った。 「…まだ続けるんですか?」 僕は思わず訊いた。 「うん…お前が食べ終わるまでねー」 「…」 僕は黙々と、食べ進めた。 …と、彼は…またすぐに、戻ってきた。 「やっぱやめた…」 そして空になったグラスに、日本酒を注ぎ足した。 「…」 僕はサエゾウをみた。 「せっかくお前が来てんのに…仕事すんの勿体ない」 そう言って彼は、僕の前に座った。 「…」 サエゾウは、日本酒をチビチビ飲みながら言った。 「それちょうだい、葉っぱのやつ…美味しかった」 そして、あーんと口を開けた。 「これ、僕の分ですけど…」 「いーじゃん…食べさせてー」 「…」 仕方なく僕は、小松菜を箸でとって、 サエゾウの口に入れた。 「うん…葉っぱ美味いねー」 「小松菜です」 あーたぶん、この人… 野菜の名前とかも、全然認識してないんだろうなー そのくせ、味の違いは分かっちゃうのかも。 僕は試しに訊いてみた。 「これ、何の肉か分かります?」 「えっ…鶏肉でしょ」 あ、何だ…肉は分かるんだ… 「居酒屋の肉じゃがに入ってる鶏肉より、こっちの方が美味いねー」 「…???」 「あ、でも…とんかつの鶏肉も好きだなーあと、ステーキの鶏肉も…」 「…」 鶏肉が分かるんじゃなくて、 肉は全部『鶏肉』なんですね、 サエゾウさんの中では…

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