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レコーディング(1)

後日、Dead Endingも含めた4曲のデモ音源が 一斉送信で送られてきた。 「…」 ホントに、白いサエさんと黒いサエさんだ… ますますサエさんスゴいと思った。 そして後日… レコーディングは、また割と近所のレンタルスタジオを使わせてもらう事になった。 その日は、まずはカイのドラムを集中的に録る予定になっていた。 たぶんまだ出番が無いので、 行かなくてもいいって話だったのだが… やはり気になって、 僕は見学に…スタジオへ行った。 「…お、カオルも来たん?」 「おはようございます…」 スタジオの、待合室みたいな、ロビーみたいな所で、 シルクが煙草を吸っていた。 「あ、こちらが噂のボーカルくん?」 受付のお兄さんが、声をかけてきた。 「そうそう」 また『噂の…』ですか。 どんな噂んなってんですかー 「…よろしくお願いします」 とりあえず僕は、会釈をした。 「もう2曲終わった。このペースだと、早々に俺まで回ってくるかもしれない」 「…そうなんですね…」 僕は、カイがドラムを叩いている部屋を、 扉についてる小さな小窓から覗いてみた。 いつもの感じで、調子良く叩いている風に見えた。 その隣の小部屋では、大きな機材を前に、 サエゾウとスタジオのエンジニアスタッフさんが、 ヘッドホンをつけて、とても真剣な顔をしていた。 この独特の緊張感…久しぶりだった。 僕はとりあえず、シルクの隣に座って 煙草に火を付けた。 しばらくすると、カイが出てきた。 「お疲れー」 「おう、カオルも来てたのか…」 「調子はどう?」 「うん、何とかもうちょい頑張れそうだわ…」 そう言ってカイは、受付の横の冷蔵庫から、 ハイボール缶を取り出した。 「え、飲んじゃってるんですか?」 僕はビックリして訊いた。 「だって、調子上がんないからねー」 カイはケロっとした顔で答えながら、 受付のお兄さんにお金を払った。 そしてカイは、僕らと同じテーブルを囲んで座った。 缶を開けて、一気にグビグビと飲んでから、 煙草に火を付けた。 「俺も飲もう…」 シルクも立ち上がって、冷蔵庫に向かった。 「カオルも飲む?」 「…あ、うん…」 シルクはハイボール缶を2本取り出して、 受付でお金を払った。 「はい」 「…ありがとう」 「お疲れー」 僕らは軽く乾杯した。 と、そこへサエゾウも出てきた。 「あーなんか、ちゃっかり飲み会んなってるー」 「サエも飲む?」 シルクが、自分の缶を彼に手渡した。 「飲むー」 そう言ってサエゾウは、シルクの缶を受取り… ゴクゴクと飲んだ。 「どんな感じ?」 「カイが絶好調よー」 「それはよかった…」 「シルクも心の準備しといてねー」 「わかった…」 そしてサエゾウは、 シュッとまた小部屋に戻っていった。 「よし、行くか…」 そう言って、カイも立ち上がった。 「頑張ってくださいね」 「おう…」 カイも、スタジオに入っていった。 シルクは自分のベースを取り出して、 ウォームアップをし始めた。 「レコーディングって、間違えないようにしないといけないから、テンションが難しいよね…」 「うん…どこか冷静を保ちながら、いつものテンションに持っていくってのがな…」 シルクは、いつになく、 少し不安そうな顔をして、呟いた。 と、再びサエゾウが…飛び出してきた。 「ちょっと、カオル…来てー」 「…?」 「お前置いとけばいい事に気付いたー」 「は?」 「…何か物足りない感じがしたんだよね」 言ってる意味が… ちょっと分かんないんですけど… 「わかった」 シルクが言った。 わかったんかい… 「俺んときも、そうしようと思ってたとこ…」 「…」 なんだかよく理解できないうちに、 僕は、カイのいるスタジオに連れて行かれた。 「ここに立ってて…」 サエゾウは、僕を…カイに背中を向けて立たせた。 「立ってるだけでいいんですか?」 「歌っててもいいよ、すごい小ちゃい声で…」 「振り向いちゃダメなんですか?」 「振り向いても、いいよ…」 僕は、とりあえずいったん、カイを振り向いた。 「むやみに振り向かれると、動揺するかもな…」 「大丈夫!」 サエゾウが、キッパリ言い切った。 「じゃあ、始めるねー」 そう言って彼は、向こうの小部屋に戻っていった。 僕が立たされてるのを、横から見渡せる場所に、 小部屋が見える窓があった。 向こうで何やら喋っているのが… カイのヘッドホンには聞こえているのだろうが、 僕には分からなかった。 まもなく、スタッフの人が… 僕にも分かるくらいに、 どうぞっていうアクションをした。 そして…カイが、 神様のドラムを、叩き始めた。 「…っ」 その音は、リハやLIVEのとき同様… ハナから僕の身体に突き刺さってきた。 いや…同様なんてもんじゃなかった。 ドラムだけ…だからこそだろうか、 それはズカズカと激しく、僕の身体を侵食した。 ほどなく、僕の身体は… カイでいっぱいになってしまった。

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