「米研いで炊飯器に入れてくれる？」 「…何合？」 「うーん一応２合でいっか…」 テキパキと僕にも指示を出しながら、 彼は料理を進めていった。 「豆腐も、ペーパーにくるんでチンしといて」 「わかった…」 それからシルクは、 ちゃんと昆布でダシをとった汁を２つの鍋に分けた。 そして片方には、買ってきた鶏皮と… ゴボウやら、にんじんやらの野菜を入れた。 「汁はめんどくさいから、玉ねぎとワカメでいっか」 「いやもう、汁物があるってだけで、めんどくさいの域を遥かに超えてると思う…」 煮物がぐつぐつしている間に、 今度は、オクラやらミョウガやらを刻んだ。 チーン 「豆腐オッケーです」 「それ、２つに切って小皿に盛っといてくれる？」 彼は、言いながら、 刻んだオクラとミョウガに、納豆を混ぜた。 「そんでこれ、豆腐の上に乗せといて」 「はいっ…」 なるほど、ネバネバ豆腐かー 美味しそうだし、疲労回復しそうだ… それからシルクは、大根とスライサーを僕に渡した。 「これ、ツマ作れるやつだから…」 「へえー」 僕は、水を張ったボウルの上で、 大根をスライサーにかけた。 ホントに大根が、シュッと…線の様に切れていった。 「すごーい！」 そうしている間に彼は、 冷蔵庫からピンク色の刺身のサクを取り出した。 「…まぐろ？」 「びんちょうね、安かったから…」 そしてシルクは、まるで板前さんのように… それをキレイに引いていった。 カチっと… 炊飯器が保温に切り替わる音がした。 「…ちょうどいいな」 僕が作ったツマの水気を切りながら呟いた。 「…その棚から、黒い大皿取って」 「…これ？」 「うん」 その大きな黒い皿に…ツマの山をいくつか作り… その山ごとに数切れずつ、刺身が盛られていった。 「すごい…居酒屋の刺し盛みたい…」 「あとは、テーブルに並べてってくれる？」 「わかった」 そして僕が、刺し盛やら豆腐やらを並べている間に、 シルクは、煮物を大きい皿に盛った。 「これも…あと箸とか醤油さしも…あと日本酒のグラスも出しといて」 彼がいちいち良い指示を出してくれるので、 無駄なく、テキパキと準備が進んだ。 ご飯と…汁物も盛られた。 「よし、食うかー」 本日の労い飯… ごはん、玉ねぎとワカメのすまし汁 鶏皮と根菜の煮物、ネバネバ豆腐、びんちょう刺身… 「スゴい…ホントに疲労回復サッパリ和風定食だ…」 僕は思わず、それをスマホで撮影した。 「トキドルLINEに送っていいですか？」 「そーね、ちゃんと労ったって証拠に」 「あんまり美味しそうだから、皆来ちゃうかも…」 そして僕らは、日本酒で乾杯した。 「お疲れー」 「お疲れ様でしたー」 僕らは早速…箸をつけた。 「いただきます！」 「うん、びんちょう安かったのに美味いな…」 「鶏皮もトロトロで美味しいー」 ネバネバも身体に浸みた。 それらがまた、日本酒にも、白いご飯にも めっちゃ合った… 僕はまた、バクバク食べた。 「ごはんおかわりあるからねー」 日本酒をおかわりしながら、シルクが言った。 「うん、おかわり…しよっかなー」 僕は言いながら、 茶碗を持ってキッチンに行った。 おかわりご飯を持って戻った所に、 ピコン…とお互いのスマホが鳴った。 「あ、カイさんから返信きた…」 　美味そう過ぎ 　日を改めてレコ上げやってよ 「いいね、レコ上げ…サエも労わないとな…」 「ついでにショウヤさんとハルトさんも呼んで、ミーティングを兼ねたらいいんじゃないですか？」 「それ、完全にミーティングにならないけどな…」 「あはは、そっかー」 それから、他愛もない話をしながら… 僕らは食事を楽しんだ。 大好きな人と一緒に、美味しい食卓を囲める幸せを、 また改めて僕は、しみじみ噛みしめていた。 「…いつも、ありがとうね、シルク…」 「何、急に…」 「いつも…シルクに貰ってばっかりな気がする…」 「はっ…いじめてばっかりじゃなくて？」 「あははっ…それもそっか…」 シルクは、少し黙って… 改めて僕の目をジッと見ながら言った。 「俺の方が、ありがとうだよ…俺のこと…いや、俺らのこと、お前はスゴく引っ張り上げてくれる」 「…」 「…自分で言うのもなんだけど…俺、ベースが上手くなった気がする」 「…元々上手いと思うけど…」 「俺だけじゃない…カイもサエも…すげー上手くなった。今回、改めてそう思ったわ…」 「…」 「お前も上手かったよなー…ホント今回、いろんな意味でお前の凄さをしみじみ痛感した」 「…」 シルクにそう言ってもらえることが、 僕はとても嬉しかった。 もちろん、自分的にはまだまだ… これっぽっちも自信なんて無いのだが… 「まーだから…変に気遣わないで、労われてくださいねってこと」 「…はい…」 僕は、少し照れ臭そうに、 グラスに残っていた日本酒を飲み干して、言った。 「ごはん…おかわりするね…」 そして僕は茶碗を持って、 再びキッチンの方へ行った。 「よく食べるなー」 シルクは呟いた。 「頼むから…イメージ崩れない程度に体型は保っといてくれよー」