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あっちの2人

ピンポーン… 返事は無かった。 カイは、そっとドアノブを回すと… 鍵がかかっていないドアが、開いてしまった。 「不用心だなー」 呟きながらカイは、部屋に上がった。 「…」 買ってきた飲み物をテーブルに置くと… 彼は、PCの前でヘッドホンをかぶって作業している サエゾウの背中に近付いた。 …いや待てよ 集中してるとこ、邪魔しちゃいかんかもしれないな… カイは思い直して、飲み物を冷蔵庫にしまった。 ハイボール缶を1本だけ取り出して、 とりあえず自分がゴクゴク飲んだ。 そして煙草に火を付けながら…スマホを開いた。 既読も付いてない… あれからずっとやってんだな… とりあえずカイは、テーブルのある部屋に座って 黙ってスマホをいじっていた。 「ふぅー」 しばらくして、サエゾウの溜息が響いた。 そして続いて、椅子から立ち上がる音がした。 「うわっ!」 「あ、お疲れー」 カイの姿を見て、サエゾウは飛び上がって驚いた。 「いつの間に来てたのー?」 「ん、ついさっき…」 「言ってくれたらよかったのにー」 「いや、邪魔しちゃいかんと思って…」 サエゾウは冷蔵庫を開けた。 「あ、何だ…買ってきてくれたんだー」 彼は、カイが買ったハイボール缶を取り出して、 プシュッと良い音で開けた。 それをグビグビ飲んでから、サエゾウは言った。 「出来たよー」 「マジか、聞きたい」 カイは立ち上がった。 そして2人はPCの前に行った。 サエゾウはヘッドホンをカイに渡した。 カイが椅子に座って、それを装着すると、 サエゾウは、カチカチとマウスを操作した。 「…」 カイは目を閉じて…そこから流れる音に聴き入った。 「…すげー良いじゃん、流石だな…」 「でしょー」 「あいつらにも聞かせたい」 「そーだね、そこまでやっちゃうかな…」 そう言ってサエゾウは、 再びカイと替わって椅子に座り、 その音源を、LINEに貼り付けるまでの作業を進めた。 「あーでもなー、どうせヤってるからなー」 送信ボタンをクリックする直前で、 サエゾウは手を止めた。 「なーんか楽しそうな画像載せてるしー、悔しいから明日までお預けにしとこうかなー」 「あはははっ…それもいいかもね」 サエゾウは結局、画面をそのままにして、 再び立ち上がった。 「…何か食う?」 カイが訊いた。 「あー食いたいー何か作ってくれんの?」 「…」 とりあえずカイは、キッチンを漁った。 先日僕が買った玉ねぎが… ちょっと可哀想な感じに残っていた。 「悪い…これは流石に俺にはムリだ…」 「じゃあ何か出前とろうー」 「いーよ、何でも好きなの選んで、俺が払うから」 「マジでーやったー」 サエゾウは、早速スマホを開いて… 宅配サイトを物色した。 もう遅い時間だったので、 営業店舗は限られていたが… 「中華でいいかな、唐揚げと炒飯と、酢豚と…うーん…カニ玉も美味そうだな…春巻きも…」 「いいよ、全部いっとけ…」 遅い時間が幸いして、空いていた事もあってか… 到着までに、20分もかからなかった。 彼らはそれを、テーブルに並べた。 「悔しいからこっちも写真撮って送ってやるー」 そう言ってサエゾウは、 所狭しと並んだ中華めしの数々を、写真に撮って… トキドルLINEに貼り付けた。 「いただきまーす」 「お疲れー」 改めてハイボール缶で乾杯してから、 彼らは遅い食事にありついた。 「唐揚げうまっ…」 「うん、美味いな…」 食べ進めながら… 2人はしみじみ、レコーディングを振り返った。 「…カオルって…すげーよなー」 「…そーだな…今回改めて思ったわ」 「結局、あいつのおかげで…全部1発録りで済んじゃったもんなー」 「うん…普通だったら、もっと何回もやり直してる」 「持ち上げオーラがすげーのかな…」 「…自分も相当持ち上がってたけどな…」 カイは…『銀色のカオル』を思い出して、言った。 「今まで見た事ないオーラ放ってたよな…」 「うん…まさかの俺らが姦られちゃったやつー」 2人は、様々な場面を思い起こした… 「…でも…俺ら、めっちゃ上手くなったよねー」 「確かに…今日の聞いてても、それは思った」 「それもみんな…カオル効果なんかなー」 「…うん」 サエゾウは立ち上がった。 「意地悪しないで、送っとこう…」 そう呟きながら、彼はPCの前に行った。 「あっ…」 画面を見て…サエゾウは、また手を止めた。 さっき送った中華めし画像のあとに、 シルクからのメッセージが入っていた  カオルもだけど、サエも食い過ぎ  ちょっとは体型気にしろよ  もうあんまり若くないんだから 「うーーっ」 「あはははっ…」 「やっぱ送んのやめたーー」 そう叫んで、サエゾウはドサっと テーブルの前に座った。 …そして悶々と、中華めしを完食した…

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