114 / 398

レコ上げ兼ねてのミーティング(1)

その日は、シルクの家に集まって… 先日のレコーディングの打ち上げと、 出来上がった音源を聴きながら、 PVの構成をイメージするミーティングを兼ねようっていう事になっていた。 もちろん、ハルトとショウヤも呼ばれた。 ショウヤは、既に自分で、 曲の構成がズラッと並んで書かれて、 その横に、そこでどういう映像を差し込むとかを、 記入できるようになっている用紙を作ってきていた。 「すげーな、これ…」 「こんなに細かく作っていくもんなんですね…」 「いや、プロの人達はどうか分かりませんけどね、自分がやり易いように考えてみました」 「まーとりあえず、力作聴いてー」 そして、今回作った音源が流された。 送られてきた音源を、ヘッドホンで何回も聴いたが… スピーカーから流れるそれは、 またそれとは違う良さがあった。 「…」 「…」 ハルトもショウヤも… すっかり黙って聞き入っていた。 やがて、4曲を聞き終わって…ハルトが言った。 「…これ、全部ちゃんと生演奏で録ったんでしょ?」 「シンセだけは違うけどねー」 「なんかさ、上手くなったね…」 「やっぱそう思う?」 「うん」 「…なんか…トキドルさんが、手の届かない所に行っちゃいそうな気がしました」 ショウヤもしみじみ言った。 「そんな事ないよー全然届くよー」 言いながらサエゾウは、 手を伸ばしてショウヤに触った。 「まーとりあえず今日は、レコ上げがメインだから」 「そーそー乾杯しよ」 キッチンにいたシルクも、 ハイボール缶を手に、こっちへやってきた。 「とりあえず、お疲れー」 「にゃー」 「かんぱーい」 「お疲れ様でした…」 「ホントに、カオルいちばんお疲れだったよねー」 「…ははっ」 スピーカーからは、また同じ4曲が、 繰り返し流されていた。 「…この、サエさんの弾き分けが…スゴいですね」 「お、ショウヤ…分かってくれるー?」 「是非、映像も2人撮りたいですねー」 「白いサエと黒いサエ…どんな風にしようかな…めっちゃワクワクするー」 「これ、カオルさんも2人なんですもんね」 「そっか、ダブルで白黒…すげー良い絵になりそう」 「真夜庭は…やっぱり、色んな庭の景色が欲しいから、どっか自然のある所で撮りたいですねー」 「あーそれも、ドラマ仕立てで、色々着せたいー」 「宵待ちは…めっちゃエロくしたいなー」 「これは和装かな…」 「カイさんとシルクさんはシュッと演奏してて…サエさんとカオルさんは、いっそランダムに絡んでてもらうとか…」 「うわー、それめっちゃ皆泣くわ…」 「神様は…カオルさん玩具感を推したいですよねー」 「これは、サーカスっぽい衣装がいいかなー」 ハルトとショウヤは、 聞きながらどんどんイメージを膨らませていた。 ショウヤは、思い浮かんだイメージを、 次々と用紙に書き込んでいった。 「カオルーこれ、運んでー」 シルクがキッチンから、僕を呼んだ。 僕は、シルクが作った料理を… 次々とテーブルに運んだ。 「うわーめっちゃ美味そうー」 先日以上に、大盛りな刺し盛り… そして今日は、鶏皮ではなく、モツ煮… 色んな野菜の上に、ゆで卵と生ハムも乗ったサラダ… そして、じっくり火を通したと思われる 柔らかそうな鶏肉のロースト… 「これは、カオルが作ってきてくれたのを焼いた」 シルクが、焼き上がった野菜のミートグラタンも出してきた。 僕も、もう一品… 家から作って持ってきたサンドを並べた。 「すげー豪華だな…」 「撮影撮影ー」 「あー僕も撮りたいです!」 「あと、パスタと炊き込みご飯もあるから…」 「やったーカブツー」 「いただきまーす」 そして僕らは、豪華料理を食べながら… また、音源に耳を傾けた。 「ちなみに…何か、この曲、絶対こうしたい…みたいなのはありますか?」 ショウヤが皆に訊いた。 「…さっきお前らが言ってた感じで、俺は全然良いと思ったけど」 カイが言った。 「うん、俺もー」 サエゾウも、バクバク食べながら言った。 「宵待ち…カオルとランダムやりたーい」 「…」 「俺の曲の…シンプルな白黒も良いと思う」 「真夜庭も、まさにそんなイメージです」 「ホントですね…良いんですね?」 ショウヤは若干身を乗り出して、強い口調で言った。 「だったら…もうあとは…僕の好きなように…やっちゃいますよー」 ショウヤは…今まで見た事のないような… ちょっと悪い表情で、ニヤッと笑った。 「…」 「…うん」 「…」 やや圧倒されるくらいの迫力に、 3人様も、黙ってしまった。 「…お願いします。ショウヤさんのセンス、僕は大好きですから、安心して任せられます…めっちゃ期待してます!」 僕は、うっかり言ってしまった… みるみるショウヤの表情が緩み… また、彼の目には涙が溢れてきてしまった。 「ありがとうございます、カオルさん…」 ショウヤは、立ち上がって僕の隣にくると、 僕の手をしっかり握った。 「カッコいいPV…一緒に作りましょう…」 泣きながらショウヤは言った。 僕は… やっちちまった感じな表情で… チラッと、3人様の方を見た。 もちろん、期待通りの台詞が返ってきた。 しかも3声のユニゾンで… 「あーあ、また泣かしたー」

ともだちにシェアしよう!