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それぞれの時間(2)

シルクの背中を見送って… 階段を上りながら、僕は考えた。 可愛がってもらえ…って言われてもなー ショウヤさん、爆睡しちゃってるし… 悔しいから… 誰かさんみたいに、寝てる間に、弄っちゃうか… バタン。 そして僕は…部屋に戻った。 「…んん…」 ドアが閉まる音に反応してか… ショウヤがモゾモゾと、動き出した。 「…ショウヤ…さん?」 僕は、彼の枕元にしゃがんで、声をかけた。 ショウヤは…ゆっくりと、目を開けた。 「……」 目を開けたものの… 全く状況を理解できていない彼は、 しばらくそのまま固まっていた。 「…カオル…さん?」 「大丈夫ですか?気持ち悪くないですか?」 「…ここは?」 「僕んちです…ショウヤさん、カギ落としちゃって、ショウヤさんちに入れなかったから…」 「…」 ショウヤは必死で記憶を辿ろうとしていた。 「椅子から落っこちたの…覚えてます?」 「…うーん…」 「一緒に帰ったのは?」 「…」 「じゃあ、どこまで覚えてんですかー?」 「鶏のごはんが美味しかったのは覚えてます…」 「…っ」 「…床に転がったのも…なんとなく…」 相当酔っ払っちゃってたんだなー 頑張って階段上ったのも、覚えてないのかー 「…すいませんでした…」 色々と思い出す…ムダな努力をした結果… とりあえずショウヤは、僕にそう言った。 「気持ち…悪くないですか?」 「…はい」 「あ、お水飲みます?」 「…あ、はい…」 僕は、立ち上がって… 冷蔵庫から冷たいペットボトルの水を取り出して ショウヤに差し出した。 「起きれます?」 「…」 ショウヤはゆっくり、身体を起こした。 そして差し出された水を受け取り、 ゴクゴクと飲んだ。 「…ふうー…ありがとうございます…」 起き上がって… ショウヤは段々と、頭の中が整理できてきたらしい。 「寝ちゃって…椅子から落ちたんですね…」 「そうですよービックリしました」 「で、カオルさんが…一緒に帰ってくれたんですね」 「…でも、ショウヤさんちのカギが無くて、入れなかったんですよー」 「…」 「なので、うちに…連れて来ちゃいました…」 「…ホントに、すいませんでした…」 僕は、さっきシルクから受け取ったカギを見せた。 「カギは、シルクさんちに落ちてたそうです」 「…あ、ありがとうございます」 「とりあえず…大丈夫そうで、よかったです…」 僕は少しホッとして… 冷蔵庫から、ハイボール缶を取り出した。 「ちょっと飲み直しますね…ショウヤさんは、ゆっくり寝ててください」 僕は、それを空けて…ゴクゴクと飲んだ。 「…トイレ、借りていいですか?」 「どーぞどーぞ…」 ショウヤは、ゆっくり布団から出て、立ち上がった。 そして、若干フラつきながらトイレに行った。 とりあえず大丈夫そうでよかった… 可愛いがるとかそーいうのは… まあどうでもいいや 僕はそんな事を思いながら… 換気扇の下で煙草に火を付けた。 しばらくして、トイレから出てきたショウヤは、 僕のいた場所の隣に座った。 「…ホントに、ご迷惑かけてすいません…」 「いやホントに、そんな気にしないでください…僕だって、いつまたお世話になるか分かんないし…」 僕は煙草を消すと… ショウヤの隣に座った。 「あ、大丈夫だったら…ショウヤさんも、もうちょい飲みます?」 「…」 「焼酎あります…レモンも瓶のやつなら…」 「…頂きます」 僕は立ち上がって… グラスに氷を入れ、焼酎とレモン果汁を出した。 「あー炭酸がない…」 「…大丈夫です、水で…あ、自分でやります」 「大丈夫、座っててください、水でいいんですね」 「…すいません」 そして僕は、出来上がった…若干微妙な… 焼酎水割りレモン風味を、ショウヤに渡した。 「お疲れ様でしたー」 「ホントにすいませんでした…」 僕らは、小さく乾杯をした。 「…ここ、カオルさんちなんですねー」 しみじみ見回しながら、ショウヤが言った。 「意外に、生活感…ありますね…」 控えめな表現で、彼は続けた。 「あーすいません、散らかってて…」 「それはそれで…ギャップ萌えます」   あー 良いイメージで表現してくれるなあ… 「誰か、来たことあるんですか?」 「…シルクが…例の、スゴい久しぶりに帰ったときに、一緒に来てくれました」 それを聞いたショウヤは… また、思い出して項垂れた。 「あの時は本当にすいませんでした…僕のせいで…」 「いや、むしろショウヤさんのおかげ…だったんじゃないですか!」 僕はすぐに切り返した。 「ショウヤさんが居なかったら…今の僕は無い…」 「…」 僕は、まっすぐにショウヤを見て…続けた。 「あの時は辛かったけど…今となっては、あの経験があったからこその、今の自分があると思ってます」 そんな僕を見て… ショウヤは、ふっと笑いながら言った。 「カオルさん…強くなりましたね…」 僕は…2本めのハイボール缶を開けながら答えた。 「それも全て…皆さんのおかげです。ショウヤさんも含めての…」 「…」 ショウヤは、嬉しそうに微笑みながら、 グラスのレモン割りを、さっさと飲み干した。 「おかわり…もらっていいですか?」 「…あ、はい…」 飲むの早いな…大丈夫かな… また、変なスイッチ入んないといいんだけど…

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