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ショウヤとデート(1)

翌日、特に予定も無かった僕は… ショウヤに誘われて、散歩に出かけた。 「今日はいっぱい歩きますよー」 「…わかりました」 昨日落っこちたくせになー いろいろ相殺して、元気になっちゃったな、この人… カシャッ… もちろんカメラを片手な彼は… 住宅街の、植込みや…ネコなど、 道中の何気ない風景を、いちいち撮影していった。 カシャッ… いや、何気なく歩いてるだけの僕のことは、 撮らなくていいからー 「カオルさんの横顔…いつ見ても可愛いです」 「…っ」 そーいうのもいいからー 30分くらいは歩いただろうか… 僕らは大きな公園にたどり着いた。 休日のその公園は… 親子連れで賑わい、子ども達の声が響いていた。 「ホントは子どもも撮りたいんですけどねー」 ショウヤは小さい声で言った。 「そんな事したら、イマドキは通報されちゃいますから止めてくださいね!」 僕は強い口調で言った。 子ども達が遊んでいるエリアを通り過ぎて… 僕らは公園の、更に奥へ進んでいき… やがて、自然そのままな感じに、木が鬱蒼と茂った まるで山の中のような場所に入っていった。 「…こんな所があったんだ…」 半分崩れかけた、丸太の階段を下りていくと… 小さな池があった。 「子どもの頃…よくザリガニ釣りに来たんです」 「へぇー」 そっか、ショウヤはあそこが実家なんだもんな… ずっとこの辺で育ったのか… 彼はその池の風景も、何枚もカメラに収めていった。 そして、僕を振り向いて言った。 「ちょっと歌ってみてくれませんか?」 「…ええっ…」 ショウヤはカメラを動画に切り替えて、 それを僕の方に向けた。 「真夜中の庭にも、こんな感じの場所あるんじゃないですか?」 「…」 あー あの庭は、もうちょっと洋風なイメージだけどな… でも…こんな場所もあるかもしれないか いや、そういう問題じゃないー 「あくまでイメージです…口パクで大丈夫です」 「…」 僕の思ってる事を見透かすように、彼は続けた。 僕は致し方なく… 何となく…な感じで、小さい声で歌い出した。 「…」 ショウヤは、真剣な表情でカメラを僕に向け… それを近付けたり、遠ざけたり…回したりしていた。 「はい、ありがとうございますー」 「ふうー」 「いい感じにイメージ撮れました」 それはよかった… それから僕らは、池のすぐ際まで下りてみた。 「ザリガニ…いるかなー」 ショウヤは、池を覗き込んだ。 「カメラ落とさないでくださいよー」 池の表面にカメラを向ける彼に向かって、 僕は思わず言った。 「…カメラの心配ですね」 「あっ…いや、ショウヤさん落ちないでください」 僕は慌てて言い直した。 「カメラ気を付けます」 ショウヤが、ちょっとクスッと笑いながら言った。 「カオルさんも、落ちないように…水触れます?」 言いながら彼はまた、カメラを僕に向けた。 「…やってみます」 僕はその場にしゃがんで、水面に手を伸ばした。 彼はまた、その様子を動画に撮った。 「…PVとは別で、カオルさん動画作ろうかな…」 カメラを回しながら、ショウヤが呟いた。 「…」 そんな感じに、ちょいちょい動画を撮られながら… 僕らは、その鬱蒼とした山の中を散策して… やがて、公園を出た。 「今度、皆でお弁当持って来たいですね…」 「あーそういうのもいいですねー」 お弁当か… シルクとか、スゴい張り切りそうだよなー 一緒に作ったり…したら楽しいだろうな… 「…」 僕に向けてカメラを構えていたショウヤが… 少しだけ寂しそうな表情になったのを、 僕は気付かなかった。 「もうちょっと歩けますか?」 「…はい、大丈夫です」  「そしたら、もうちょっと先まで行きましょう…」 そう言って彼は、 更に、住宅街の中を進んでいった。 知らない道を歩くのは、とても楽しかった。 普段通り過ぎてしまうような何気ない風景も、 ショウヤがいちいちカメラを向けるので それにつき合っているうちに、 色々な物が新鮮に見えてくるのだった。 「ショウヤさんと一緒だと、新たな発見がいっぱいありますね」 「…ホントですか?…そう言ってもらえると、すごく嬉しいです」 そう言いながら… 彼はまた、僕にカメラを向けた。 カシャッ… そして、とても嬉しそうに微笑んだ。 そうか… もしかして、カメラを通して見ると、 嘘ついたらバレちゃうのかな… 「…えーと…でもホントは…もう早く帰りたいです…足が痛いし…」 僕は言ってみた。 「…」 ショウヤは、カメラを構えもせずに僕を見て、 ちょっと呆れたように言った。 「は、何のフリですか、それ…」 「…」 あー僕って、 嘘とかズルいのとか、演劇部とか… ホントにダメなんだなー 「歌のスイッチ入るとすごいのに…不思議ですねー」 また見透かしたように、ショウヤが言った…

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